退院や転院の調整に携わるMSW(医療ソーシャルワーカー)の方は、患者様やご家族、病院、施設、介護サービス事業者など、さまざまな立場の間に入りながら支援を行っています。
その中でも、介護タクシーや民間救急の手配は、MSWの方にとって負担の大きい業務の一つです。
介護タクシー事業者として大切なのは、単に依頼された搬送を行うことではありません。
MSWの方が何に悩み、どのような思いで事業者を探しているのかを理解し、その期待に責任と誠意を持って応えることが必要です。
きちんと対応できる事業者が、今後ますます選ばれるようになっていくと考えています。
MSWが抱える介護タクシー手配の悩み
1.退院日が決まっても、搬送手段が見つからない
退院や転院の日程が決まっていても、患者様の状態に対応できる事業者がすぐに見つかるとは限りません。
たとえば、次のような条件があります。
- 車いすでの搬送
- リクライニング車いすの使用
- ストレッチャーでの搬送
- 酸素や吸引への対応
- 看護師の同乗
- 階段介助
- 複数人での対応
- 長距離、県外への搬送
搬送条件が複雑になるほど、対応できる事業者は限られます。
MSWの方は、限られた時間の中で複数の事業者へ電話をかけ、車両、機材、人員、空き状況を確認しなければなりません。
2.患者様の状態をどのように伝えるか迷う
MSWの方が介護タクシーを手配する際には、患者様の身体状況や必要な介助について、事業者へ伝える必要があります。
しかし、どの情報が搬送に必要なのか分かりにくいこともあります。
- 座った姿勢を保てるか
- 車いすへ移乗できるか
- ストレッチャーが必要か
- 介助者は何人必要か
- 酸素は何リットル必要か
- 吸引の可能性があるか
- 搬送中に体調が変化する可能性があるか
- 自宅や施設に階段があるか
医療側では当たり前の情報でも、搬送事業者が必要とする情報とは異なる場合があります。
事業者側から必要事項を分かりやすく確認する姿勢が求められます。
3.聞いていた情報と現場の状況が違う
MSWの方がご家族などから聞いた内容は、二次情報であることが少なくありません。
そのため、現場に到着してみると、事前に聞いていた状況と異なることがあります。
たとえば、
- 「階段は5段程度」と聞いていたが、実際には20段以上あった
- 「体重は40kgくらい」と聞いていたが、実際には60kg以上あった
- 車いすに座れると聞いていたが、座位を保てなかった
- エレベーターがあると聞いていたが、車いすが入らなかった
- 住所の町名が一部抜けており、別の場所だった
- 施設名が略称で伝えられ、正式な場所が分からなかった
MSWの方が丁寧に確認していても、完全に防ぐことはできません。
このような場合に、事業者がMSWの方を責めたり、強い態度を取ったりするのではなく、現場で安全な方法を考えることが大切です。
4.どの介護タクシー事業者へ頼めばよいか分からない
介護タクシー事業者によって、対応できる内容は異なります。
- 保有している車両
- 使用できる機材
- 階段介助の対応人数
- ストレッチャー搬送の経験
- 医療的な対応範囲
- 看護師手配の可否
- 長距離搬送の経験
- 料金体系
「介護タクシーであれば、どこでも同じ対応ができる」というわけではありません。
MSWの方は、患者様の状態に適した事業者を見極めなければならず、選定そのものが負担になっています。
5.料金を患者様やご家族へ説明しにくい
介護タクシーの料金は、運賃だけではありません。
搬送内容によっては、次のような費用が加わります。
- 基本介助料
- 車いすやストレッチャーの使用料
- 階段介助料
- 複数人対応料
- 待機料
- 高速道路料金
- 看護師同乗料
- 時間外、休日対応料
患者様やご家族から「なぜこれだけ費用がかかるのか」と聞かれた際、MSWの方が説明役になることがあります。
事業者は、料金の根拠を分かりやすく伝え、可能な限り事前に概算を提示する必要があります。
6.病院とご家族の間で板挟みになる
医学的には退院が可能でも、ご家族の受け入れ準備が整っていないことがあります。
- 自宅での介護に不安がある
- 施設が決まっていない
- 福祉用具が準備できていない
- ご家族同士の意見がまとまっていない
- 経済的な問題がある
- 自宅環境に問題がある
病院側は退院を進めたい一方で、ご家族は不安を抱えています。
MSWの方は、その双方の間に立ちながら調整しています。
介護タクシー事業者は、依頼の背景にこうした事情があることも理解しておく必要があります。
7.急な変更や再調整が多い
退院や転院の搬送では、直前の変更が珍しくありません。
- 退院時刻が遅れる
- 診察や処置が長引く
- 搬送先が変わる
- 車いすからストレッチャーへ変更になる
- 酸素が必要になる
- ご家族の同乗人数が変わる
- 受け入れ先の都合で時間が変わる
事業者にとって予定変更は負担になりますが、医療や介護の現場では避けられない場合があります。
変更に対してどのような態度で対応するかも、信頼を左右します。
8.搬送後の結果が分からない
搬送を依頼した後、MSWの方は次のような点を気にしています。
- 無事に到着できたか
- 現場で問題はなかったか
- 追加の介助が発生したか
- ご家族との行き違いはなかったか
- 最終的な費用はいくらだったか
搬送後に簡単な報告があるだけでも、MSWの方は安心できます。
依頼を受けて終わりではなく、結果まで報告することが信頼につながります。
9.一般の介護タクシーでよいのか判断に迷う
患者様の状態によっては、
- 一般の介護タクシーでよいのか
- ストレッチャー対応車両が必要か
- 民間救急が必要か
- 看護師の同乗が必要か
- 救急車を利用すべきか
判断が難しいことがあります。
最終的な医療判断は医師や看護師が行うものですが、事業者も自社の対応範囲を明確に伝える必要があります。
無理に受注するのではなく、安全に対応できる条件を説明することも責任ある対応です。
MSWの悩みに応えられる事業者が選ばれる
MSWの方が抱えている悩みに、介護タクシー事業者としてどのように応えていくか。
これは今後、事業者が選ばれるうえで非常に重要なことだと考えています。
車両や機材を保有しているだけでは十分ではありません。
相談を受けた際に状況を正確に把握し、必要な確認を行い、最後まで責任を持って対応できる事業者が選ばれます。
一度断ると、次から声がかからなくなることがある
私の経験上、一度依頼を断ってしまうと、その後は声がかからなくなることがあります。
もちろん、すでに予約が埋まっている場合や、自社の車両、機材、人員では安全に対応できない場合など、やむを得ず断らなければならないこともあります。
大切なのは、断ることそのものだけではありません。
電話での態度や断り方によって、関係が切れてしまうことがあります。
一度切れてしまった関係を再びつなぎ直すためには、長い時間がかかります。
そのため、電話応対の段階から、次の点に気をつける必要があります。
- 丁寧な言葉遣い
- 相手の話を最後まで聞く
- できる、できないを曖昧にしない
- 折り返すと伝えた場合は必ず連絡する
- 難しい場合も代替案を考える
- 相手を急かしたり責めたりしない
- 変更や追加料金を速やかに説明する
一回の電話応対で、事業者の責任感や姿勢は伝わります。
MSWは患者様のために最善の方法を探している
MSWの方は、単に空いている介護タクシーを探しているのではありません。
患者様が安全に退院や転院をできる方法、ご家族の負担が少ない方法、病院や施設にも迷惑をかけない方法を考えています。
限られた時間の中で、患者様にとって最善の方法を探しておられます。
私たち介護タクシー事業者に声がかかった時点で、すでに数ある事業者の中から選んでいただいているということです。
その信頼を当たり前だと思ってはいけません。
声をかけていただいたことに感謝し、その信頼を裏切らない対応が必要です。
「案件」ではなく、その先にいる人を見る
介護タクシー事業者は、依頼を単なる一件の案件として見てしまいがちです。
しかし、その一件の向こうには、患者様、ご家族、病院職員、施設職員、そして責任を持って調整しているMSWの方がいます。
MSWの方は、患者様やご家族から相談を受け、院内の関係部署と調整し、受け入れ先へ連絡し、そのうえで介護タクシー事業者を探しています。
その背景を考えれば、無責任な返答や曖昧な対応はできません。
受けた依頼を最後まで責任を持って進めることが必要です。
対応できない場合も、関係を切らない
すべての依頼を受けることはできません。
しかし、対応できない場合でも、ただ「無理です」「空いていません」と答えて終わるのではなく、できることがあります。
- 別の時間帯であれば対応できないか確認する
- 他の営業所や協力事業者で対応できないか探す
- 必要な車両や機材を持つ事業者を案内する
- 看護師や追加人員の手配方法を提案する
- 翌日以降であれば対応可能であることを伝える
- 今後の相談に備えて連絡先や対応範囲を案内する
今回の依頼を受けられなかったとしても、誠意ある対応をすれば、次の相談につながる可能性があります。
反対に、冷たい態度や面倒そうな受け答えをすれば、その時点で関係が切れてしまうことがあります。
搬送終了まで責任を持つ
依頼を受けた後も、次のような対応が大切です。
- 搬送日時、場所、患者様情報を正確に確認する
- 必要な車両、機材、人員を準備する
- 変更があれば速やかに共有する
- 到着の遅れが見込まれる場合は早めに連絡する
- 現場で問題が発生した場合は勝手に判断せず相談する
- 追加費用が発生する場合は説明する
- 搬送終了後に結果を報告する
MSWの方が安心して依頼できるのは、「この事業者にお願いすれば、最後まできちんと対応してくれる」と感じられる事業者です。
選ばれる事業者は、目の前の一件を大切にする
介護タクシーの仕事は、患者様を車に乗せて目的地まで運ぶだけの仕事ではありません。
患者様の移動を支えると同時に、退院や転院を調整しているMSWの方の仕事を支える役割があります。
電話応対、確認、説明、連絡、搬送、報告。
一つひとつは小さなことかもしれません。
しかし、その積み重ねによって信頼が生まれます。
MSWの方から継続して依頼をいただける事業者になるためには、目の前の一件を大切にすることです。
声をかけていただいた時点で、数ある事業者の中から選んでいただいています。
そのことへの感謝を忘れず、担当されるMSWの方の気持ちを考えながら、責任と誠意を持って対応していきましょう。

