「なんで分かってくれないの?」MSWと介護タクシー、退院・転院のすれ違い

介護タクシーや民間救急をやっていると、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)から退院や転院搬送の相談をいただくことがあります。

事業者からすると「病院から仕事をいただいた」と考えがちですが、病院側から見ると少し景色が違います。MSWは介護タクシーを探すことだけが仕事ではありません。患者さんやご家族への支援、退院後の生活についての調整、転院先や施設との連携など、さまざまな関係者の間に立っています。その仕事の中の一つに「患者さんの移動手段をどうするか」があります。

つまり私たちにとっては一件の搬送依頼でも、MSWからすると退院・転院を成立させるために必要な調整の一部分です。

そう考えると、病院側が「頼みやすい事業者」と「ちょっと頼みにくい事業者」が出てくるのも分かります。

たとえば電話です。一人で介護タクシーを経営していれば、運転中や介助中に電話に出られないことは当然あります。これは仕方ありません。問題は、その後も折り返しがないことです。

MSWはいつまでも一社からの返事を待っているわけにはいきません。患者さんの退院や転院を進めるため、連絡がつかなければ次の事業者を探します。

「電話に出られない事業者」と「連絡がつかない事業者」は、似ているようでまったく違います。

また、何でも「できます」と答えてしまうことにも注意が必要です。

「ストレッチャーできます」「階段も大丈夫です」「酸素を使用する搬送にも対応できます」と電話では答えていたのに、当日患者さんのところへ行ってみたら「これは対応できません」となる。

もちろん、聞いていた情報と実際の状況が違うことはあります。しかし、事前に確認できることもたくさんあります。

患者さんは座位を保てるのか。どのような車いすを使っているのか。ストレッチャーが必要なのか。酸素などを使用しているのか。階段はあるのか。何人で対応する必要があるのか。

「できます」と答えることがサービスなのではなく、必要なことを確認したうえで「この条件なら対応できます」と答えることが、搬送事業者として大切なのだと思います。

時間についても同じです。

私たちは道路を走る仕事なので、渋滞することもあれば、前の搬送が長引くこともあります。病院で予定以上に時間がかかることもあります。すべての搬送を分単位で予定通りに進めることは難しいでしょう。

だから問題なのは「遅れること」そのものより、遅れる可能性が分かっているのに連絡しないことです。

10時の予定なのに10時になっても来ない。病院から電話をすると「今向かっています」と言われる。これでは病院側も動きようがありません。

15分遅れる可能性が分かった時点で連絡があれば、MSWも病棟や転院先へ情報を伝えることができます。病院が必要としているのは、必ずしも完璧な運行だけではなく、予定が変わったときに早く情報が入ってくることでもあります。

料金についても、病院側の事情を考える必要があります。

電話では「1万円くらいです」と聞いていたのに、実際には介助料や機材料、待機料などが加わり、ご家族が想定していた金額と大きく違った。そうなると「病院から紹介された事業者なのに、聞いていた金額と違う」と病院へ問い合わせが入ることもあります。

搬送内容が分からなければ料金を確定できないことはあります。それなら最初から「現時点では概算です」「この介助が必要になった場合は別途料金がかかります」と説明しておく。安く見せることよりも、後から話が変わらないことの方が、長く病院と付き合っていくうえでは重要だと思います。

そしてもう一つ、搬送事業者として気をつけたいのが、自分たちが判断すべきことまでMSWに判断してもらおうとすることです。

患者さんの身体状況や医療的な情報は病院に確認する必要があります。しかし、その情報を聞いたうえで、どの車両を使うのか、どの機材を準備するのか、何人で対応するのか、自社の体制で安全に引き受けられるのかを判断するのは搬送事業者側です。

病院には病院の専門領域があり、私たちには移動支援の専門領域があります。

ここを混同しないことも大切です。

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でも、介護タクシー側にも「なんで分かってくれないの?」がある

ここまで読むと、「介護タクシー側ばかり気をつけなければいけないのか」と思われるかもしれません。

もちろん、そんなことはありません。

私たち搬送事業者にも、病院から依頼をいただくときに「それだけでは分からないんです」と思うことがあります。そして、その多くは情報不足から起こります。

たとえば「車いすの方です。お願いします」という依頼です。

一般的な車いすなのか、リクライニングなのか、ティルト式なのか、電動車いすなのか。それだけでも必要な車両や対応方法が変わる可能性があります。

さらに、座位保持ができるのか、移乗が必要なのか、どの程度の介助が必要なのかも分かりません。

病院側からすると「車いすの患者さん」という情報でも、搬送事業者からすると「もう少し教えてください」となるのです。

酸素についても同じです。

「酸素があります」と聞いただけでは、搬送方法を決められない場合があります。搬送中も使用するのか、流量はどうなっているのか、誰が管理するのか、患者さんはどのような状態なのか。必要な情報を確認したうえで、自社の設備や人員、連携体制で対応できるのかを判断する必要があります。

時間についても、双方の認識が違うことがあります。

「10時にお願いします」と言われても、その10時が「病院へ迎えに来てほしい時間」なのか、「病棟を出発したい時間」なのか、「転院先へ到着しなければならない時間」なのかによって、配車はまったく変わります。

特に転院では、受け入れ先の病院にも予定があります。

搬送事業者としては、迎えに行く時間だけではなく「転院先には何時までに到着する必要がありますか?」まで知りたいのです。そこから病棟での準備、乗車介助、移動時間、道路状況などを考えて逆算します。

また、「詳しいことはご家族に聞いてください」と言われることもあります。

もちろん、住所や同乗人数、料金の支払いなど、ご家族に確認することはあります。しかし患者さんの身体状況や搬送時に注意すべきことなど、病院側に確認したい情報もあります。

私たちが病院に細かく質問するのは、医療的な判断をしたいからではありません。

その患者さんを安全に移動させるために、どんな車両、機材、人員を準備すればいいのかを判断したいからです。

急な退院や転院では、「詳しいことは分からないけれど、とりあえず来てもらえますか」と言われることもあります。

病院側が急いでいる事情も分かります。しかし、患者さんの状態が分からないまま現場へ向かっても、到着してから「この車両では対応できない」「一人では難しい」と分かれば、結果的に患者さんも病院も困ることになります。

だから事業者がいろいろ質問するのは、仕事を断るためではありません。

きちんと引き受けるために確認しているのです。

「なんで分かってくれないの?」は、お互いにある

MSWからすると、「どうして時間通りに来てくれないの?」「どうして最初に料金を説明してくれないの?」「対応できると言ったのに、なぜ当日になってできないの?」と思うことがあるでしょう。

一方、介護タクシー事業者からすると、「車いすだけでは分からないんです」「10時が何の時間なのか教えてほしい」「患者さんの状態をもう少し教えてほしい」と思うことがあります。

どちらかが間違っているというより、お互いが見ている場所が違うのだと思います。

MSWは患者さんの退院後の生活、転院先との調整、ご家族との話し合いなど、退院・転院全体を見ています。

介護タクシー・民間救急事業者は、その中の「移動」を担当し、安全に移乗できるか、どの車両が必要か、どんな機材が必要か、何人で対応するか、何時に出発すれば間に合うかを考えています。

送り出す病院があり、搬送する事業者がいて、受け入れる病院や施設がある。そして、その中心には患者さんとご家族がいます。

退院・転院は、この人たちの間で情報をつないでいく仕事でもあります。

だから病院と介護タクシー・民間救急は、「仕事を出す側」と「仕事をもらう側」という関係だけではありません。

患者さんを次の場所へ安全につなぐため、それぞれ違う役割を担当している。

そう考えると、MSWがなぜ時間を気にするのか、なぜ何度も確認するのかが事業者側にも見えてきます。

反対に、介護タクシー事業者がなぜ車いすの種類まで聞くのか、なぜ酸素について細かく確認するのか、なぜ転院先への到着時間を聞くのかも病院側に伝わりやすくなります。

「なんで分かってくれないの?」

そう思ったときこそ、相手が何を知りたくて、何を守ろうとしているのかを一度考えてみる。

MSWが搬送事業者の事情を知る。

搬送事業者もMSWの事情を知る。

その小さな理解の積み重ねが、患者さんにとってより安全でスムーズな退院・転院につながっていくのだと思います。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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