「その遅れ、みんな怒っているよ」介護タクシーの予約時間で見落としてはいけないこと

介護タクシーの予約を受けるとき、「何時にお迎えに行けばいいですか?」と確認するのは当たり前です。しかし、転院や退院をはじめとする介護移動では、指定された時間に迎えに行けばそれで十分とは限りません。

なぜなら、介護タクシーを利用する方の多くは、「移動すること」そのものが目的ではないからです。

病院へ行くのは診察や検査を受けるため。別の病院へ向かうのは治療を継続するため。施設へ向かうのは新しい生活を始めるため。そして退院して自宅へ帰る場合にも、その先には在宅生活の再開があります。

つまり、介護タクシーによる移動は、利用者が次の目的を達成するための途中にあります。

目次

一つの移動の先に、何人もの予定がある

例えば、一人暮らしの方が退院して自宅へ戻るケースを考えてみましょう。

介護タクシー事業者から見れば「病院から自宅まで」という一件の搬送です。しかし、自宅ではケアマネジャー、訪問介護、訪問看護、福祉用具事業者などが集まり、退院後の生活について担当者会議を予定していることがあります。ベッドなどの福祉用具の搬入や調整が予定されている場合もあります。

一人の利用者を一台の車で運んでいるように見えて、実際には、その一台の到着時間に何人もの予定がつながっているのです。

ここで30分遅れれば、複数の事業者を待たせることになります。その人たちにも次の訪問や仕事がありますから、一件の遅れがその後の予定にまで影響する可能性があります。

これがタイトルにある「みんな怒っているよ」という状況です。

もちろん、本当に全員が怒っているという意味ではありません。「まだ来ないのだろうか」「次の訪問に間に合わない」「この後の予定をどうしよう」と、それぞれが困っているかもしれないということです。

ところが、その状況を介護タクシー事業者だけが知らないことがあります。

病院、介護タクシー、ケアマネジャー、訪問看護、福祉用具事業者。それぞれが自分に必要な情報を持っていても、移動を含めた全体の予定が共有されているとは限りません。

これは介護移動で見落としやすいところです。

だから予約を受ける際には、「何時ですか?」「どちらまでですか?」だけではなく、

「今回の移動は何のためですか?」

「到着後に何か予定されていますか?」

まで確認できると、その予約時間が持つ本当の意味が見えてきます。

「10時退院」だから「10時予約」とは限らない

退院時間についても注意が必要です。

「10時退院」と言われても、10時ちょうどに病院を出発できるとは限りません。退院当日には説明、会計、薬の受け取り、荷物の整理、退院手続きなどに時間がかかることがあります。

一方、自宅では11時から担当者会議が予定されているかもしれません。

そうであれば、「10時退院だから10時に介護タクシーを予約する」という考え方だけでは不十分です。

大切なのは、何時に出発するかだけでなく、何時までに到着する必要があるのかを確認し、そこから逆算して考えることです。

介護移動では、予約時間そのものよりも「なぜ、その時間なのか」を知ることが重要なのです。

その遅れで、MSWさんの信用まで失わせていないか

もう一つ、介護タクシー事業者として忘れてはいけないのが、その仕事を誰が手配してくれたのかということです。

退院や転院では、本人や家族ではなく、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)が介護タクシーを探し、手配してくれていることがあります。

MSWさんがご家族へ「こちらの事業者さんにお願いしておきました」と案内したのに、予定時刻になっても介護タクシーが来なければ、ご家族からMSWさんへ「まだ来ないのですが」と問い合わせが入るかもしれません。

するとMSWさんも状況確認や調整に追われます。

つまり、事業者の遅れは自分たちだけの問題ではありません。

MSWさんは、自分の信用の上でその事業者を紹介してくれているとも考えられます。

時間どおりに到着し、丁寧に対応し、安全に目的地まで送り届ければ、「またこの事業者にお願いしたい」という信頼につながります。

反対に、連絡もなく遅れることが続けば、「次は別の事業者にお願いしよう」と考えられても不思議ではありません。

一件の遅れだけで次の依頼がなくなるとは限りません。しかし、**「安心して任せられる事業者かどうか」**という印象には確実に影響します。

遅延が予想されたらどうするか

もちろん、介護タクシーは道路を走る仕事です。交通渋滞や事故、前の利用者への対応など、自分たちだけではコントロールできない事情によって遅れることがあります。

重要なのは、遅延そのものよりも、遅れそうだと分かったときにどう対応するかです。

まず、「間に合うかもしれない」とぎりぎりまで様子を見るのではなく、現在の状況から到着予想時刻を確認します。

次に、その移動の目的と到着後の予定を確認します。

10分程度なら調整できるのか。転院先の受け入れ時間が決まっているのか。自宅で担当者会議が予定されているのか。診察や検査の予約があるのか。

同じ30分の遅れでも、移動の目的によって影響はまったく違います。

そして、遅れる可能性が高くなった段階で、できるだけ早く関係者へ連絡します。

間に合わないことが確定するまで待つのではなく、「現在○分程度遅れる可能性があります」と分かる範囲で伝えることが大切です。

そのうえで、遅れによって本来の目的に支障が出るのかを判断します。

大幅な遅れが予想される場合には、自社で行くことだけにこだわらず、他の車両や信頼できる事業者への代行も検討する必要があるかもしれません。

自社で向かえば1時間遅れる。しかし、協力事業者なら予定に近い時間で対応できる。

その場合に優先すべきなのは、

「自社がその仕事をすること」ではなく、「利用者が必要な時間に必要な場所へ移動できること」

です。

代行をお願いする場合には、利用者の身体状況、必要な介助、車いすやストレッチャーなどの機材、医療機器の有無、乗降場所、階段や段差、家族の同乗など、安全な搬送に必要な情報を確実に引き継ぐ必要があります。

遅延時こそ、利用者への謝罪と再確認を

代行の手配や関係者への連絡ができれば、それで遅延対応が終わるわけではありません。

実際に利用する本人やご家族への対応も大切です。

まず、「お待たせして申し訳ありません」と、待たせていることに対してきちんと謝罪します。

交通事情や前の搬送など事情があったとしても、最初から理由を並べるのではなく、まず謝罪し、そのうえで現在の状況を伝えます。

「現在20分程度の遅れを見込んでいます」「○時○分頃の到着予定です」など、できるだけ具体的に伝えます。

そして、改めて確認したいのが、

「この遅れによって、その後の予定に支障はありませんか?」

ということです。

予約時には分からなかった予定が、この段階で初めて分かることもあります。

到着後に担当者会議がある。転院先から時間を指定されている。訪問看護師が待っている。福祉用具事業者が来る。

そうした予定が分かれば、代行を含めて対応を再検討することができます。

また、代行する場合には事業者側だけで話を進めるのではなく、利用者やご家族へ状況を説明し、必要な確認を行ったうえで引き継ぐことが大切です。

そして実際に到着した際にも、電話で謝罪したから終わりではなく、改めて「お待たせして申し訳ありませんでした」と伝えます。

遅延時には、

謝罪する → 到着見込みを伝える → その後の予定を再確認する → 必要なら代行・再調整する → 到着後にもう一度謝罪する

という流れを意識するとよいでしょう。

「なぜ、この時間なのか」まで考える

介護タクシーは、一人の利用者を一台の車で運ぶ仕事に見えます。

しかし、その一つの移動には、本人、家族、病院、MSW、ケアマネジャー、訪問介護、訪問看護、福祉用具事業者、施設など、多くの人が関係しています。

だから時間厳守は大切です。

しかし、本当に大切なのは、単に遅刻しないことだけではありません。

なぜ、この時間なのか。

到着後に何が予定されているのか。

もし遅れたら、誰に影響するのか。

そこまで考えることで、その予約時間が持つ本当の意味が見えてきます。

時間を守ることも営業です。遅れそうなときに早く連絡することも営業です。必要であれば代行を手配し、利用者の目的を守ることも信頼につながります。

そして遅れてしまったときには、きちんと謝罪し、その方の予定をもう一度確認する。

介護タクシーの仕事では、車両を目的地へ到着させることがゴールではありません。利用者がその先にある目的を達成できるところまで考える。

一つの移動の向こう側にいる人たちまで想像して対応することが、医療、介護、そしてその人の生活をつなぐ介護移動には必要なのではないでしょうか。

移動サポートネットワーク(ISN)では、転院・退院をはじめとした介護移動について、利用者やご家族、医療・介護関係者、搬送事業者が知っておきたい基礎知識を発信しています。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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