高齢者の通院外出では、私たちにとっては簡単に思えることでも、本人にとっては分かりにくかったり、戸惑ってしまったりすることがあります。介護タクシーの現場でも、「今日、何時に来てもらうんでしたっけ?」「病院は10時の予約なんだけど、タクシーも10時だったかな?」と、本人や家族から予約時間を確認する電話をいただくことがしばしばあります。
これは決して珍しいことではありません。通院には、病院の予約時間、検査の時間、自宅を出発する時間、介護タクシーのお迎え時間など、いくつもの「時間」が関係しています。特に高齢になると、それぞれの時間を整理して覚えておくことが難しくなることもあります。
だからこそ、通院外出では本人だけに任せるのではなく、家族や施設職員、そして介護タクシー事業者も含めて、出発前に確認することが大切です。
病院の予約時間と介護タクシーのお迎え時間は違います
介護タクシーを予約するときに特に注意したいのが、病院の予約時間と介護タクシーのお迎え時間の混同です。
例えば「病院の予約は10時です」と言われても、介護タクシーが10時に自宅へ迎えに行けばよいわけではありません。病院まで30分かかるのであれば、それより前に出発する必要がありますし、車いすへの移乗や自宅から車両までの介助に時間がかかる方であれば、その時間も考えて予約する必要があります。
さらに注意したいのが、診察前に検査が予定されている場合です。診察予約は10時でも、「診察前に採血をしてください」「先にレントゲンを撮ってください」と病院から案内されていることがあります。この場合、10時に病院へ到着したのでは間に合わない可能性があります。
そのため介護タクシーを予約するときは、単に「診察は何時ですか?」と確認するだけではなく、「診察前に検査などはありませんか?」まで確認しておくと安心です。予約票や病院から渡された案内があれば、前日までにもう一度確認しておくことをおすすめします。
通院当日の忘れ物は意外と多くあります
もう一つ、通院外出の現場でよく起こるのが忘れ物です。これは自宅から通院する場合だけではなく、高齢者施設から病院へ向かう場合にもあります。
実際に施設へお迎えに行き、出発したあとや病院へ到着してから「診察券がない」「保険証など必要なものを持ってきていない」と分かることがあります。普段から多くの利用者を支援している施設であっても、こうしたことは起こります。
忘れ物に気づいた場合、「取りに戻ればいい」と思われるかもしれません。しかし、介護タクシーは一件の送迎だけを行っているわけではなく、その後にも別の利用者の予約が入っていることがあります。そのため、時間の関係で忘れ物を取りに戻ることができない場合もあります。
また、戻ることができたとしても、介護タクシーは実際に走行した距離や利用時間などに応じて料金が発生するため、忘れ物を取りに戻った分についても料金がかかる場合があります。利用者にとって余計な負担になるだけでなく、病院の予約時間に遅れたり、その後の介護タクシーの運行に影響したりする可能性もあります。
だからこそ、通院では「出発してから気づく」のではなく、「出発する前に確認する」ことがとても重要です。
診察券や保険証だけ確認すればよいわけではありません
通院に必要なものは、診察券や保険証類、お薬手帳だけとは限りません。受診する診療科や、その日に行う検査・処置によって必要なものが変わります。
例えば、ストマ(人工肛門・人工膀胱)の交換などで病院を受診する場合、交換に必要な装具や用品を本人側で持参するよう病院から指示されていることがあります。病院へ行けばすべて用意されていると思ってしまうと、到着してから必要なものがないことに気づくことがあります。
介護タクシーのドライバーは、利用者がその日に病院でどのような診察や処置を受けるのか、すべてを把握しているわけではありません。そのため、本人や家族、施設職員が事前に「今日の受診では何が必要なのか」を確認して準備しておく必要があります。
診察券、保険証類や医療証、お薬手帳、病院から渡された予約票や書類などに加えて、その日の検査や処置に必要なものがないかを確認しておくことが大切です。
介護タクシー事業者にもできることがあります
こうした忘れ物を防ぐために、介護タクシー事業者側にもできることがあります。それは、利用者を乗せたらすぐに出発するのではなく、出発前に「診察券など、お忘れ物はありませんか?」と一言声をかけることです。
ほんの数秒の確認ですが、この一言によって「あ、診察券を置いてきた」「お薬手帳を忘れた」と気づくことがあります。自宅や施設を出発する前であれば、その場で取りに行くことができます。しかし、数キロ走ったあとや病院へ到着してから気づけば、簡単には戻れません。
これは利用者のためだけではありません。忘れ物を取りに戻れば、その後の予約時間に影響する可能性があり、次に利用する方をお待たせしてしまうことにもつながります。出発前の一言は、利用者にとっても介護タクシー事業者にとっても大切な確認になります。
高齢者の通院は「分かっているはず」で考えない
高齢者の外出支援では、「本人が分かっているだろう」「必要なものは持っているだろう」「予約時間は覚えているだろう」と考えないことが大切です。
病院の予約時間とタクシーのお迎え時間が分からなくなったり、診察前に検査があることを忘れてしまったり、必要なものを準備したつもりでも一つ抜けてしまったりすることは、実際の通院支援の現場で起こります。
だからといって、すべてを本人の責任にするのではなく、本人、家族、施設職員、ケアマネジャー、医療機関、介護タクシー事業者など、関わる人たちがそれぞれ少しずつ確認することが大切だと思います。
介護タクシー事業者にとっても、通院支援は利用者を車に乗せた瞬間から始まるものではありません。何時に病院へ到着する必要があるのか、その前に検査はないのか、必要なものはそろっているのか。こうしたことを可能な範囲で確認することも、安心して通院していただくための大切な支援の一つです。
通院外出は、ただ自宅や施設から病院まで移動するだけではありません。その方が予定していた診察や検査を無事に受け、目的を果たして帰ってくるところまでが一つの外出です。
そのためにも、お出かけの前にはもう一度、**「時間は合っているか」「必要なものはそろっているか」**を確認してから出発しましょう。
そして介護タクシー事業者も、出発前に**「お忘れ物はありませんか?」**と一言声をかける。この小さな習慣が、利用者の安心だけでなく、その日の運行をスムーズにすることにもつながります。

