事業を始めると、どうしても売上に目が向きます。「今月はいくら売れたのか」「どうすればもっと売上を増やせるのか」と考えるのは、経営者として当然のことです。介護タクシーであれば、予約を増やしたり、車両を増やしたり、人を採用したりすることで、さらに事業を大きくしたいと考えるようになります。
私自身、2004年に介護タクシーを始めてから20年以上この仕事を続けてきました。その中で今、改めて重要だと感じているのが、売上を伸ばすこと以上に、支出を把握してコストを管理することです。
特に怖いのは、支出の把握が曖昧なまま事業を拡大してしまうことです。売上は増えている。仕事も増えている。それなのに、なぜか会社にお金が残らない。そして給与や社会保険、車両代、税金などの支払日が近づいてから、「思っていたよりお金がない」と気づく。資金ショートの可能性が見えてくると、本当に焦ります。
だからこそ、事業を拡大する前に、最低限、自社のお金がどのように流れているのかを把握し、資金繰りができる状態をつくっておく必要があります。
売上だけでなく、実際のお金の動きを見る
まず基本として、売上と収入はできるだけ毎日記録しておくことが大切です。今日いくら売れたのか、今月の累計売上はいくらなのか、そして実際にいくら入金されたのか。この数字を日々確認していれば、月末になって初めて「今月は売上が足りなかった」と気づくのではなく、月の途中で状況を把握して行動を変えることができます。
ここで理解しておかなければならないのが、売上と入金は必ずしも同じではないということです。今日10万円の仕事をしても、その10万円が今日会社に入ってくるとは限りません。現金で受け取る場合もあれば、請求書を発行して翌月以降に振り込まれる場合もあります。逆に今日仕事をしていなくても、先月の売上が今日入金されることもあります。
つまり、経営者が見なければならないのは「いくら売れたのか」だけではなく、そのお金がいつ会社に入ってくるのかというところまでです。帳簿上は売上があっても、支払日に現金がなければ会社は支払いができません。利益と手元にある現金は、分けて考える必要があります。
支出は「だいたい」ではなく、できる限り把握しきる
そして、私が特に重要だと考えているのが支出の管理です。売上は比較的把握しやすいのですが、事業が大きくなるほど支出は複雑になります。
介護タクシー事業だけを考えても、燃料費、高速道路料金、駐車場代、車両代、リース代、自動車保険、整備費、車検、タイヤなどの消耗品、事務所家賃、通信費、システム利用料、広告費、給与、社会保険料、税金など、さまざまなお金が出ていきます。
一つひとつを見ると数千円、数万円程度でも、それが積み重なれば毎月かなりの金額になります。さらに車両が増え、人が増え、営業所が増えていけば、支払い先も支払い方法も増えていきます。
ここを「だいたいこれくらいだろう」という感覚で管理していると、実際にいくら会社から出ていっているのか分からなくなります。売上は増えているのにお金が残らないのであれば、まず会社から出ているお金を一度すべて並べてみる必要があります。
**支出については「だいたい把握している」ではなく、できる限り把握しきる。**これが資金繰りの基本だと思います。
金額だけでなく「いつ払うのか」まで把握する
支出を把握するときには、金額だけではなく支払いサイトも重要です。例えば100万円の支払いがあるとしても、それを今月支払うのか、来月支払うのか、3か月後に支払うのかによって、会社の資金繰りはまったく変わります。
入金についても同じです。今月100万円売り上げても、その入金が2か月後なのであれば、その間に発生する給与や社会保険料、車両代、家賃などは別のお金で支払わなければなりません。
だから最低限、**「いくら入ってくるのか」「いつ入ってくるのか」「いくら出ていくのか」「いつ出ていくのか」**の4つを把握しておく必要があります。
現在の銀行残高だけを見て「まだ300万円あるから大丈夫」と判断するのではなく、その300万円から今後何が引き落とされ、いつ次の入金があり、その結果、来月末、再来月末にいくら残るのかまで考える。最低でも数か月先までキャッシュ・フローを見えるようにしておけば、資金が厳しくなってから慌てるのではなく、その前に対策を考えることができます。
事業の鍵はコスト管理にある
私は、事業経営においてコスト管理は非常に重要だと考えています。
売上を100万円増やすためには、新しい仕事を獲得し、人を動かし、車を走らせなければなりません。それに対して、毎月10万円の不要な支出を削減できれば、単純計算で年間120万円になります。しかも、売上を増やす場合にはそれに伴って経費が増えることがありますが、無駄なコストを削減して生まれたお金は、その分だけ利益を残しやすくなります。
だから私は、定期的に会社の支出を並べて、「これは本当に必要なのか」と確認することが必要だと思っています。使っていないサービス、なんとなく続けている契約、重複しているシステム、効果を確認できていない広告など、小さな支出でも見直せるものはあります。
ただし、コストカットとは何でも削ればいいということではありません。車両の整備、安全のための設備、必要な保険、従業員教育など、事業の安全性やサービス品質を守るためのお金まで削れば、短期的には利益が増えても、長期的には会社を弱くしてしまいます。
削るべきなのは、事業の価値につながっていないコストです。必要な支出と不要な支出を判断して、必要なところにはきちんとお金を使う。その判断も経営者の仕事だと思います。
利益を残してから未来へ投資する
そして、もう一つ大切なのが事業拡大の順番です。
会社を大きくしようと思えば、新しい車両を購入したり、人を採用したり、広告を出したり、新しい営業所をつくったりと、さまざまな投資が必要になります。これらは決して悪いことではありません。会社が成長するためには、未来への投資は必要です。
しかし私は、先に事業拡大から始めると、資金繰りに苦しむ可能性が高くなると考えています。
車を増やせば車両代や保険料が増えます。人を採用すれば給与や社会保険料が発生します。営業所を増やせば家賃や設備費が増えます。しかも多くの場合、これらの支出は売上が増えるより先に発生します。
さらに怖いのは固定費です。想定していた売上が上がらなくても、給与、家賃、車両代などの支払いは続きます。仕事が増えるまで半年かかったとしても、採用した人が辞めたとしても、予定していた仕事が取れなかったとしても、支払いは待ってくれません。
だからこそ私は、まず支出を把握し、コスト管理を徹底して利益が残る状態をつくり、一定のキャッシュを確保する。そのうえで、残った利益の一部を未来のために投資するという順番が大切だと考えています。
事業拡大そのものが危険なのではありません。拡大に耐えられる財務状態をつくる前に拡大してしまうことが危険なのです。
売上の大きさより「残る会社」をつくる
事業をしていると、どうしても売上の大きさに目が向きます。月商100万円、300万円、500万円、1,000万円と数字が大きくなれば、会社が成長しているように感じます。
しかし、本当に重要なのは、その売上からいくら利益が残り、会社にいくら現金が残っているのかです。
売上が大きくてもほとんどお金が残らない会社では、何か問題が起きたときに耐えることができません。反対に、適切にコストを管理して利益とキャッシュを残せる会社であれば、そこから人材、車両、教育、システム、新しい事業などへ投資することができます。
私自身、最初からこうした数字の管理をすべて徹底できていたわけではありません。開業したばかりの頃はお金がないから毎日の数字を見る。しかし、仕事が増えて忙しくなってくると、数字を見ることが後回しになる。私にもそういう時期がありました。
だからこそ今、改めて基本が重要だと感じています。
売上と収入は毎日記録する。支出はできる限り把握しきる。入金と支払いのサイトを確認する。そして最低限、数か月先のキャッシュ・フローを押さえて、自分で資金繰りができる状態にしておく。
そのうえでコストを管理し、利益とキャッシュを残し、その一部を未来へ投資していく。
支出を把握する
→ コストを管理する
→ 利益を残す
→ キャッシュを確保する
→ 利益の一部を未来へ投資する
→ 事業を拡大する
私は、この順番が大切だと考えています。
焦って会社を大きくするのではなく、「拡大できる会社になってから拡大する」。
介護タクシーをはじめとした移動支援事業を10年、20年と継続していくためにも、売上をつくる力と同時に、お金を残し、守り、未来へ使う力を身につけることが重要だと思います。
移動サポートネットワーク(ISN)では、移動支援に携わる事業者が長く事業を継続できるよう、現場の技術だけでなく、数字・経営・組織づくりについても共有していきます。

