車いすのまま、家族みんなで出かけるという選択肢
介護タクシーというと、
「病院への通院に使う車」
というイメージを持っている方が多いかもしれません。
もちろん、通院や入退院、転院は介護タクシーの大切な役割です。
しかし最近、私たちの現場では少し変化を感じています。
通院ではなく「お出かけ」を目的としたお問い合わせが、以前と比べておよそ2倍に増えてきました。
お墓参りに行きたい。
家族みんなで食事に行きたい。
孫の結婚式に出席したい。
久しぶりに自宅へ帰りたい。
温泉や観光地へ行きたい。
こうしたご相談が、じわじわと増えています。
介護タクシーは、
「病院へ行かなければならない人のための車」だけではありません。
身体が不自由になっても、
「行きたい場所へ行く」ために使える移動手段でもあります。
車いすになると「移動」のハードルが一気に上がる
車いすを利用するようになると、それまで当たり前だった外出が急に難しくなることがあります。
例えば家族で食事へ行こうと思っても、
「車への乗り降りはどうしよう」
「家族だけでは車いすから移乗させられない」
「車いすをどこに積もう」
「現地までどうやって行けばいいのか」
といった問題が出てきます。
本人は外出できる状態でも、
「移動手段がないから出かけられない」
ということが起こります。
その結果、
「今回はお父さんはお留守番で」
「高齢だから仕方ないね」
となってしまう。
しかし、移動方法を変えることで参加できることがあります。
その選択肢の一つが介護タクシーです。
介護タクシーの大きなメリットは「車いすのまま乗れる」こと
介護タクシーの大きな特徴は、
車いすに座ったまま乗車できる車両があることです。
車両後部などのリフトやスロープを使用して、そのまま車内へ乗車します。
これは、利用するご本人だけでなく、介助するご家族にとっても大きなメリットがあります。
普通の自家用車の場合、
車いすから車の座席へ移乗する。
車いすを畳んで積む。
到着したら再び車いすへ移乗する。
という作業が必要になることがあります。
介助量の多い方の場合、この乗り降りだけでもご家族にとって大きな負担になります。
車いすのまま乗車できれば、こうした負担を大きく減らすことができます。
実はもう一つある、大型介護タクシーのメリット
もう一つ、あまり知られていないメリットがあります。
それが、
「ご家族も一緒に乗りやすい」
ということです。
介護タクシーには軽自動車やミニバンだけでなく、ハイエースやキャラバンなどを使用した大型車両があります。
ハイエースやキャラバンには10人乗り仕様の車両もあり、車いすの方が乗車した状態でも、複数のご家族が一緒に乗れる車両があります。
もちろん、実際に乗車できる人数は、
- 車両の仕様
- 車いすの台数
- 車いすの大きさ
- ストレッチャーなど他の機材の使用
- 座席配置
によって変わります。
そのため予約時には、車いす利用者を含めた総人数を事業者へ伝えることが大切です。
家族のイベントで「車いすの人だけ別の車」にしなくてもいい
例えば、家族6人で食事へ行くとします。
そのうち一人が車いすを利用している。
一般的な移動方法を考えると、
介護タクシーに車いすの方と付き添いの方が乗る。
残りの家族は自家用車や別のタクシーで移動する。
という形になりがちです。
でも、大型の介護タクシーなら、車両の仕様によっては、
車いすを利用するご本人と、ご家族が一緒の車で移動できることがあります。
これは単に「人数が乗れる」という話だけではありません。
家族のお出かけなのに、
「おじいちゃんだけ別の車」
ではなく、
みんなで同じ車に乗って出かけられる。
ここには大きな価値があります。
場合によっては複数台を使うより経済的なことも
「大型の介護タクシーは高いのでは?」
と思われるかもしれません。
確かに、一人だけで利用する場合には、小型車両より料金が高くなることがあります。
しかし、家族全員で出かける場合は考え方が変わります。
例えば、
介護タクシー1台
+
一般タクシー1台、2台
という組み合わせで移動する場合。
それに対して、
大型の介護タクシー1台で家族がまとまって移動する場合。
人数や距離、利用時間によっては、結果として大型車両1台の方が総額を抑えられるケースもあります。
特に、
- 家族での食事
- 冠婚葬祭
- お墓参り
- 日帰り旅行
- 観光
- 施設からの一時帰宅
などでは、大型車両という選択肢を知っておいていただきたいと思います。
「送迎」ではなく「貸切」という使い方もある
お出かけの場合、
自宅から目的地まで送ってもらい、帰りにもう一度迎えに来てもらう。
という方法だけではありません。
例えば、
自宅
↓
お墓参り
↓
家族で昼食
↓
観光
↓
自宅
といった一日の行程を、一台の介護タクシーで移動する方法もあります。
事業者によっては、こうした利用に時間制運賃を設定している場合があります。
旅行や家族行事では、
「A地点からB地点への送迎」ではなく、「一日のお出かけを支える車」
として考えると、介護タクシーの使い方は大きく広がります。
県外へのお出かけでは「営業区域」に注意
介護タクシーは長距離移動にも利用できます。
例えば、
神奈川県から山梨県へお墓参り。
静岡県へ家族旅行。
東京都内で食事。
県外の観光地へ日帰り旅行。
こうした利用も考えられます。
ただし、ここで注意しておきたいのが、
介護タクシーには営業区域がある
ということです。
タクシー事業者は、許可された営業区域を基準に運送を行っています。
そのため、
出発地と到着地の両方が、その事業者の営業区域外となる区間だけを単独で運送することはできません。
例えば、神奈川県を営業区域とする事業者が、
県外のホテルまでお客様をお連れしたあと、
翌日になって、
その県外のホテルから、さらに別の県外の観光地までだけを単独の仕事として受ける、
といった場合には注意が必要です。
宿泊を伴う旅行は「一連の仕事」として考える
では、一泊や二泊の旅行ではどう考えればよいのでしょうか。
この点について、私たちは運輸局にも確認しています。
宿泊を伴う旅行などで日にちをまたぐ場合には、
出発から帰着までを一連の仕事として受注・運行する形で対応することが重要です。
例えば、
1日目
自宅
↓
県外の観光地
↓
ホテル
2日目
ホテル
↓
別の観光地
↓
食事
↓
自宅
という行程です。
このような場合は、
「1日目の送迎」
「2日目のホテルから観光地への送迎」
とバラバラに考えるのではなく、
最初の出発から最終的に営業区域へ戻るところまでを、一連の仕事として組み立てます。
県外旅行では「全行程」を最初に伝えてください
このため、県外への旅行や宿泊を伴うお出かけを相談するときには、
「初日は○○ホテルまでお願いします」
だけではなく、
旅行全体の行程を最初に介護タクシー事業者へ伝えること
がとても重要です。
例えば、
- 出発場所
- 1日目の立ち寄り先
- 宿泊先
- 2日目の出発時間
- 観光予定
- 食事場所
- 最終的な帰着場所
- 利用人数
- 車いすの台数
- 必要な介助内容
などです。
最初から全体が分かっていれば、
営業区域の確認だけではなく、
運転者の勤務や休息、
車両の待機、
宿泊、
駐車場所、
介助者の手配なども含めて計画することができます。
日にちをまたぐ仕事ほど「旅行全体」で考える
介護タクシーで宿泊旅行をする場合、
単に車を翌日も使えばよいというだけではありません。
例えば、
運転者はどこで休息するのか。
車両をどこに駐車するのか。
翌朝は何時から動くのか。
途中で介助者が必要になるのか。
外出先のトイレは利用できるのか。
長時間車いすに座ったままで問題ないのか。
必要な医療機器はあるのか。
さまざまなことを考える必要があります。
だからこそ、
宿泊を伴う旅行ほど、早い段階から事業者と一緒に計画することが大切です。
お出かけは「ぜいたく」なのでしょうか
通院は必要だから行く。
一方で、
外食。
旅行。
お墓参り。
買い物。
美容院。
家族との時間。
これらは「行かなくても生活できる」と考えられるかもしれません。
でも、人の生活は、
必要なことだけでできているわけではありません。
好きなものを食べる。
家族と笑う。
季節を感じる。
思い出の場所を見る。
会いたい人に会う。
こうした時間も、その人の生活そのものです。
「もう出かけられない」を当たり前にしない
年齢を重ねたり、車いすを使うようになったりすると、
「旅行はもう無理かな」
「外食は大変だからやめよう」
「家族に迷惑をかけるから行かない」
と、ご本人が外出を諦めてしまうことがあります。
しかし、
移動する車を変える。
介助する人を増やす。
車いすのまま乗車する。
大型車で家族も一緒に乗る。
必要に応じて介護職や看護師などと連携する。
こうした条件を一つずつ整えることで、
できなかった外出が、できる外出に変わることがあります。
ISNは「どうすれば行けるか」を一緒に考える
移動サポートネットワーク(ISN)が目指しているのは、単に介護タクシーを探すためだけの仕組みではありません。
一人の事業者、一台の車だけでは対応できない移動もあります。
大型車両が必要。
階段介助でもう一人必要。
旅行先で別の支援が必要。
付き添いが必要。
医療的な不安がある。
そうしたとき、地域や職種を越えて協力することで、移動できる可能性は広がります。
私たちが大切にしたいのは、
「できます・できません」をすぐに決めることではなく、「どうすれば行けるのか」を考えることです。
病院へ行くためだけではなく、
家族と食事をするために。
お墓参りをするために。
孫に会うために。
旅行を楽しむために。
介護タクシーには、まだまだ知られていない使い方があります。
「車いすになったから、もう行けない」ではなく、「どうすれば行けるだろう」。
お出かけを考えたとき、その選択肢の一つとして介護タクシーを思い出していただければと思います。

