結局、介護タクシーって何なの?その人だけの移動をつくる仕事

「介護タクシーって、普通のタクシーと何が違うんですか?」

介護タクシーという言葉はかなり知られるようになりましたが、「では、介護タクシーとは何ですか?」と聞かれると、意外と説明が難しいものです。

車いすのまま乗れるタクシー、介護資格を持った人が運転するタクシー、高齢者や障害のある方が利用するタクシー。どれも間違いではありません。しかし、それだけでは介護タクシーというサービスの一部分しか説明できていないと思います。

私たち移動サポートネットワーク(ISN)は、介護タクシーを単に「移動が困難な方を車で運ぶサービス」とは考えていません。

利用者のADL(日常生活動作)や身体状況、生活環境、そして移動する目的に合わせて、必要な車両、機材、介助、人員などを組み合わせ、その人だけの安全・安心な移動をコーディネートするサービス。

これが、私たちの考える介護タクシーです。

目次

同じ「病院までお願いします」でも、必要なサービスは違う

一般的なタクシーであれば、「どこから、どこまで行くのか」がサービスを考えるうえで大きな要素になります。しかし介護タクシーの場合、出発地と目的地がわかっただけでは、どのようなサービスが必要なのか判断できません。

たとえば「自宅から病院まで連れて行ってほしい」という同じ依頼でも、玄関まで自分で歩ける方もいれば、杖を使えば歩ける方、車いすが必要な方、座った姿勢を保つことが難しくリクライニング車いすが必要な方、ベッドからストレッチャーで移動しなければならない方もいます。

さらに、自宅の玄関に段差があるのか、エレベーターがあるのか、階段を通らなければならないのかによっても必要な対応は変わります。病院へ到着してから一人で受付まで行ける方もいれば、院内での付き添いが必要な方もいます。

つまり介護タクシーでは、「車に乗せて目的地まで運ぶ」という部分だけを考えていては、その人の移動を支えることはできません。

ベッドや居室からどのように外へ出るのか。どのような状態で車に乗るのか。移動中の安全をどう確保するのか。目的地へ到着したあと、どこまで支援が必要なのか。出発から到着までを一つの「移動」として考える必要があります。

そこで重要になるのがADLです。

「歩ける・歩けない」という二択だけではなく、その人が自分でできることは何か、どの部分に支援が必要なのかを確認します。

自分で立ち上がることができるのか。移乗はできるのか。座った姿勢を保つことができるのか。短い距離なら歩けるのか。階段はどうなのか。

できることまで介助する必要はありませんし、反対に必要な支援が不足すれば安全な移動はできません。その人が持っている力を活かしながら、難しい部分を必要なサービスで補う。そのバランスを考えることが重要なのです。

「介護タクシー=車いす」ではない

介護タクシーという言葉から、車いすをイメージする方は多いと思います。

しかし、歩ける方だから介護タクシーが必要ないとは限りません。

自宅の中では歩けても長い距離の歩行が難しい方、杖を使えば歩けるものの転倒が心配な方、病院までは行けても一人で受付や会計をすることが難しい方など、必要とする支援は一人ひとり違います。

反対に、車いすを利用しているからといって、すべての方に同じ介助が必要なわけでもありません。自分で車いすを操作できる方もいれば、移乗だけ介助が必要な方、リクライニング車いすやストレッチャーが必要な方もいます。

大切なのは「車いすを使っているかどうか」ではありません。

その人が安全・安心に移動するために、何が必要なのか。

そこからサービスを考えるのが介護タクシーです。

その人に合わせるために必要な「資格・技術・知識・経験・提案」

では、一人ひとりに合わせた移動をどうやって実現するのでしょうか。

私たちは、その専門性を支えるものが、

資格・技術・知識・経験・提案

の5つだと考えています。

資格は、専門的なサービスを提供するための土台になります。しかし、資格を取得しただけで、その日からあらゆる利用者の移動に対応できるわけではありません。

実際の現場では技術が必要です。車いすへの移乗、段差への対応、スロープやリフトの操作、車いすやストレッチャーの取り扱い、車内での安全確保など、利用者を安全に移動するためにはさまざまな技術が求められます。

そして、その技術を適切に使うためには知識が必要です。

ADLについての理解、車いすやリクライニング車いす、ストレッチャーなどの機材についての知識、利用者の身体状況についての基礎的な理解、福祉車両、安全運行、介護や医療との役割分担など、知っておかなければならないことは多岐にわたります。

さらに、介護タクシーの現場では経験が大きな意味を持ちます。

なぜなら、実際の移動は教科書どおりの環境では行われないからです。

玄関が狭い。想像していた以上に段差が高い。エレベーターに車いすが入りにくい。利用者の体調が予約時とは違う。予定していた方法では安全に移動できない。

こうした状況は実際の現場では起こります。

さまざまな利用者、住宅、施設、病院、車いす、ストレッチャー、階段や段差などに対応してきた経験があることで、「この状況なら、別の方法があるのではないか」と考えるための引き出しが増えていきます。

もちろん、経験があれば何をしてもよいということではありません。経験は資格や知識、安全上の原則を無視するためのものではなく、それらを実際の現場で活かすためのものです。

そして、この資格、技術、知識、経験を利用者のために形にするのが「提案」です。

利用者や家族が、自分たちに必要な移動方法を最初から知っているとは限りません。

「車いすを貸してください」と言われたから車いすを用意する。「ストレッチャーでお願いします」と言われたからストレッチャーを用意する。それだけでは、単に依頼されたサービスを提供しているだけになってしまいます。

介護タクシーの専門性は、その先にあります。

普段はどのように移動しているのか。座った姿勢を保てるのか。自宅にはどのような段差があるのか。家族の介助は可能なのか。目的地に着いたあと、どこまで支援が必要なのか。

そうした情報を聞き取り、資格、技術、知識、そしてこれまでの経験をもとに考え、**「この方なら、この方法がより安全ではないでしょうか」**と提案する。

そこまでできて初めて、その人に合わせたサービスをつくることができます。

現場では「依頼された内容」がそのまま正解とは限らない

たとえば、ご家族から「母を自宅から病院まで連れて行きたいので、車いすを用意してほしい」というご相談をいただいたとします。

目的地と希望する機材だけを聞けば、車いす対応の車両と車いすを手配すれば済むように思えます。

しかし詳しくお話を伺うと、利用者は普段ほとんどベッドで過ごしており、短時間であれば座ることはできるものの、長時間同じ姿勢を保つことが難しい。さらに自宅の玄関には段差があり、ご家族だけでベッドから車いすへ移乗することにも不安があることがわかりました。

この状況で「ご依頼どおり車いすを持って行きます」と受けるだけでは、その方に合ったサービスとは言えません。

通常の車いすで病院まで移動することが適切なのか。リクライニング車いすのほうが身体への負担を減らせるのか。ベッドからの移乗にはどの程度の介助が必要なのか。玄関の段差をどう越えるのか。病院へ到着したあと、どこまで付き添う必要があるのか。

一つひとつ確認し、その方の移動全体を考えます。

そして、身体状況や住宅環境、これまで似たケースに対応してきた経験などを踏まえて、「通常の車いすではなくリクライニング車いすを使用し、ベッドからの移乗を介助して、玄関の段差にも対応できる方法で行きましょう」と提案する。

当日は利用者の状態を改めて確認します。予約時と状態が変わっていれば、予定していた方法に固執するのではなく、その場でもう一度安全な方法を考えます。

状態に問題がなければ移乗を行い、適切な機材を使って自宅から車両まで移動します。乗車後の安全を確保して病院へ向かい、到着後も必要な場所まで移動を支援します。

ここで提供しているものは、単なる「自宅から病院までの運送」ではありません。

利用者の状態を知り、生活環境を知り、必要な介助を考え、機材を選び、目的地までの一連の動きを組み立てています。

これが、私たちの考える「移動をコーディネートする」ということです。

利用者をサービスに合わせるのではなく、サービスを利用者に合わせる

介護タクシーには、すべての利用者に当てはまる一つの正解はありません。

同じ病気でもADLは違います。同じ車いすを利用していても必要な介助は違います。同じ「自宅から病院まで」という移動でも、住宅環境、家族の支援状況、目的地の環境によって必要なサービスは変わります。

だから大切なのは、あらかじめ用意したサービスの中から利用者をどこかに当てはめることではありません。

利用者をサービスに合わせるのではなく、サービスを利用者に合わせる。

必要な車両を選ぶ。必要な機材を選ぶ。介助方法を考える。必要な人員を考える。時間を考える。目的地までの流れを考える。状況によっては看護師などの専門職や医療・介護関係者との連携も考える。

それらを一つひとつ別のサービスとして考えるのではなく、その人の一回の「移動」として組み立てていきます。

100人いれば、100通りの移動があります。

介護タクシーは、「車いすで乗れるタクシー」という言葉だけでは説明しきれません。

介護タクシーは、その人だけの移動をコーディネートする仕事

介護タクシーを利用するとき、多くの方が最初に「病院までいくらですか?」と料金を尋ねます。もちろん料金は大切です。

しかし、本来その前に確認しなければならないことがあります。

その人は今、何ができるのか。何が難しいのか。どのような環境から出発するのか。どのような状態で移動するのか。目的地に着いてから何が必要なのか。そして、安全・安心に移動するためには、どのような支援が必要なのか。

それらを考えた結果として、必要な車両、機材、介助、人員、時間が決まり、一つのサービスが出来上がります。

だから私たちは、介護タクシーを単なる「介護付きの車」とは考えていません。

資格がある。技術がある。知識がある。経験がある。そして、それらを使って、その人に必要なサービスを提案できる。

この5つの専門性を組み合わせ、利用者のADLや身体状況、生活環境、移動目的に合わせて、安全・安心な移動を一から組み立てていく。

資格 × 技術 × 知識 × 経験 × 提案

そして、その先にあるのが、

「その人だけの移動」です。

介護タクシーとは、単に人を車で運ぶ仕事ではありません。

その人が行きたい場所へ安全・安心に移動するために必要なサービスを考え、その人だけの移動をコーディネートする仕事です。

私たち移動サポートネットワーク(ISN)は、これこそが介護タクシーという仕事の本当の価値だと考えています。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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