― 通院を一つの線で考える
介護タクシーの仕事をしていると、ケアマネジャーさんから、
「○○さんが来週病院なんですが、介護タクシーをお願いできますか?」
というご相談をいただくことがあります。
私たち移動支援事業者にとって、ケアマネさんは非常に重要な連携相手です。
利用者さんの身体状況だけではなく、生活環境、ご家族の状況、利用しているサービス、そして「これからどのような生活を続けたいのか」まで把握されているからです。
一方、長く移動支援の現場にいると感じることがあります。
それは、
ケアマネさんから見えている「通院」と、移動支援事業者から見えている「通院」は、少し景色が違う
ということです。
どちらが正しいという話ではありません。
見ている場所が違うのです。
ケアプランでは一つの「通院」でも、現場ではたくさんの工程がある
たとえば、
「10時、○○病院受診」
という予定があったとします。
ケアプランや予定表では一つの予定ですが、私たちが考えることは10時の受診だけではありません。
ご本人はベッドから起きられるのか。
着替えや排泄を済ませて外出準備ができるのか。
玄関まで歩けるのか。
車いすなのか。
ベッドから車いすへの移乗が必要なのか。
自宅に階段はあるのか。
エレベーターはあるのか。
車への乗降は一人の介助でできるのか。
病院へ着いたあと、誰が受付まで付き添うのか。
院内を一人で移動できるのか。
診察後の会計はどうするのか。
処方箋を受け取り、薬局へ行くことはできるのか。
そして、帰りの車はどうするのか。
私たちは、ここまで含めて一つの「通院」として考えています。
つまり、移動支援にとって通院は「病院まで車で運ぶ」という点ではなく、自宅を出て、必要な用事を済ませ、再び自宅へ戻るまでの一本の線なのです。
「車いすです」だけでは分からないこと
予約時に、
「車いすの方です」
と教えていただくことがあります。
もちろん大切な情報です。
しかし、安全な移動方法を考えるためには、もう少し情報が必要です。
一般的な車いすなのか、リクライニング式なのか、ティルト式なのか、電動車いすなのか。
座位を保持できるのか。
頭部を自分で支えられるのか。
移乗はできるのか。
体格はどうなのか。
酸素などの医療機器を使用しているのか。
同じ「車いす利用者」でも、状態によって必要な車両、機材、介助方法、人数まで変わることがあります。
階段についても同じです。
「階段があります」だけでは、対応方法を判断できないことがあります。
2階なのか5階なのか。
階段の幅や踊り場はどうなっているのか。
ご本人の身体状況や体重はどうなのか。
一人で介助できるのか、複数人必要なのか。
ここで知っていただきたいのは、
車両の手配と、人の手配は別の問題
だということです。
介護タクシーの車両が空いていても、必要な人員や機材が確保できなければ、安全な移動が成立しないことがあります。
「診察が終わったら迎えに来てください」が難しい理由
通院で特に難しいのが帰りです。
「行きは9時30分で、帰りは診察が終わったらお願いします」
というご希望は、とても自然だと思います。
しかし、病院が何時に終わるのかは分かりません。
10時の予約でも10時30分に終わることもあれば、12時を過ぎることもあります。
さらに診察が終わっても、会計、処方箋、薬局、薬待ちがあります。
一方、介護タクシーには次の利用者さんの予約があります。
透析、定期受診、入退院、施設への送迎など、簡単には時間を変更できない移動もたくさんあります。
そのため、
「終わったら電話をいただければ、すぐ迎えに行きます」
という対応をすべての利用者さんに約束することは難しいのです。
「今日退院になったので、今からお願いします」という依頼に対応できない場合があるのも同じです。
会社に車があることと、その時間に必要な車両・機材・人員がそろっていることは同じではありません。
これは、外からはなかなか見えにくい移動支援の事情だと思います。
ケアプランでも「移動」をもっと考えていい
移動は単なる交通手段ではありません。
病院へ行って必要な治療を受ける。
買い物へ行く。
美容院へ行く。
お墓参りへ行く。
家族に会いに行く。
孫の結婚式に出席する。
こうしたことも、その人の生活です。
ですから、ケアプランでも「介護タクシーを利用する」こと自体を目標にするのではなく、
「移動することで、どんな生活を続けたいのか」
から考えることが大切だと思います。
たとえば、
「必要な診療を継続して受けながら、自宅での生活を続けたい」
「家族だけに負担を集中させず、定期通院を続けたい」
「身体が不自由になっても、本人が希望する外出を続けたい」
という生活上のニーズがある。
そこから必要な支援を考え、介護タクシー、訪問介護、家族、保険外サービスなどを組み合わせていく。
サービスから考えるのではなく、本人の生活から必要な移動を考える。
この順番が重要なのではないでしょうか。
「介護タクシー=通院等乗降介助」とは限らない
介護タクシーと介護保険の話になると、よく知られているのが「通院等乗降介助」です。
しかし、介護タクシーを利用したから自動的に通院等乗降介助になるわけではありません。
利用者さんによって必要な介助量は大きく違います。
乗車・降車を中心とした介助で対応できる方もいれば、ベッドからの起き上がり、着替え、排泄、車いすへの移乗、外出準備など、外出するまでに一連の身体介護が必要な方もいます。
実際の介助内容や利用者さんの身体状況、ケアプラン上の位置づけなどによって、身体介護中心型として評価される場合もあります。
ですから、
「介護タクシーを使うから通院等乗降介助」と決めるのではなく、「この方には実際に何の介助が必要なのか」をアセスメントすることが大切です。
院内介助も「病院だから全部ダメ」とは限らない
「病院の中では介護保険は使えない」
と聞くことがあります。
基本的に院内では病院スタッフによる対応が想定されており、単なる待ち時間などがすべて訪問介護として算定できるわけではありません。
一方で、院内だから一律にすべて算定対象外というわけでもありません。
利用者さんの心身の状態から院内で介助が必要であり、病院側での対応が難しく、適切なケアマネジメントによって必要性が認められる場合など、算定対象となり得るケースがあります。
実際の算定については、サービス内容や地域の保険者の取り扱いを確認する必要があります。
重要なのは、
「院内だから全部ダメ」「必要だから全部算定できる」という二択で考えないこと。
誰が、どこで、何を介助する必要があるのかを整理することです。
介護保険だけですべて解決しなくてもいい
一回の通院を考えると、
介護保険で対応できる部分。
介護タクシーの運賃として利用者さんが負担する部分。
保険外の付き添いサービス。
必要に応じた看護師などの専門職。
家族が担当する部分。
さまざまな支援を組み合わせる必要がある場合があります。
すべてを一つの制度や一つの事業者で解決しようとすると、無理が出ることがあります。
大切なのは、制度に利用者さんを合わせるのではなく、
利用者さんが安全に外出するために必要な支援を整理し、そのうえで利用できる制度やサービスを組み合わせること
だと思います。
ケアマネさんの「二度手間」を減らしたい
そして、私がこれから特に変えていきたいと思っているのがここです。
一件の通院のために、
まず介護タクシーを探す。
予約したあとで階段介助が必要だと分かり、今度は介助者を探す。
病院内で付き添いが必要になり、さらに別のサービスを探す。
医療的な対応が必要なら看護師を探す。
必要な機材がなければ、それも探す。
そして、それぞれの事業者に同じ利用者さんの情報を説明し、日時を調整する。
これではケアマネさんが大変です。
そこで相談方法を、
「10月10日の9時に介護タクシーをお願いします」
から、
「10月10日に通院があります。この方が自宅を出て、受診して、帰宅するまでに必要な移動支援を一緒に考えてもらえますか?」
に変えてみる。
移動支援事業者が最初から全体を確認できれば、
車両は何が必要なのか。
階段介助は必要なのか。
何人必要なのか。
車いすやストレッチャーはどうするのか。
院内付き添いは必要なのか。
看護師は必要なのか。
帰りをどうするのか。
といったことを一度に整理できます。
つまり、
「車を一台予約する」のではなく、「一回の外出を組み立てる」
という考え方です。
ケアマネさんが全部探す必要はない
私は、ケアマネさんには利用者さんの生活全体を見ていただきたいと思っています。
一方で、
「階段介助できる人はどこにいるのか」
「この車いすを載せられる車両はどこにあるのか」
「看護師を手配できるところはどこか」
「ストレッチャーを借りられるところはどこか」
といった移動業界の細かな手配まで、ケアマネさんが一件ずつ探す必要はないのではないでしょうか。
ケアマネさんから、
「この方は、こういう生活を続けたい」
「ここに困っている」
「ここに支援が必要」
という情報をいただく。
そこから先の具体的な移動方法については、私たち移動支援側がもっと担う。
ケアマネさんは利用者さんの「生活」を見る。私たちは、その生活に必要な「移動」を考える。
それぞれの専門性を生かした方が、結果として利用者さんにとっても良い支援につながると思っています。
一回の相談で「移動全体」が見える仕組みへ
これが、移動サポートネットワーク(ISN)が目指していることの一つです。
介護タクシーだけでは解決できない移動があります。
階段介助の人員が必要なことがあります。
看護師の付き添いが必要なことがあります。
車いすやストレッチャーなどの機材が必要なこともあります。
一つの会社ですべてを抱えるのではなく、それぞれの分野に対応できる人や事業者がつながる。
そしてケアマネさんから相談をいただいたら、
「まず一度ご相談ください。必要な移動支援をこちらで整理します」
と言えるネットワークをつくる。
車両はどこが担当するのか。
階段介助をどうするのか。
付き添いをどうするのか。
必要なら看護師とどう連携するのか。
機材はどうするのか。
帰りの移動をどう組み立てるのか。
それをケアマネさんが一つずつ探すのではなく、移動支援側でつないでいく。
そうすれば、ケアマネさんの二度手間、三度手間を減らすことができます。
そして、その結果として利用者さんの「行けない」を一つでも「行ける」に変えることができるかもしれません。
移動は、その人の生活そのもの
身体が元気なとき、
「どこへ行くか」をそれほど意識することはありません。
しかし、歩けなくなったり、車いすが必要になったり、医療的なケアが必要になったりすると、それまで当たり前だった外出が急に難しくなります。
病院へ行くことだけが移動支援ではありません。
買い物に行きたい。
美容院へ行きたい。
お墓参りに行きたい。
家族に会いたい。
結婚式に出たい。
旅行に行きたい。
「どこへ行けるか」は、「どんな生活ができるか」ということでもあります。
だからこそ、移動を単なる「送迎」として考えるのではなく、その人の生活を支える一つの重要な要素として考えてみる。
ケアマネさんから見えている「その人の生活」と、私たち移動支援事業者から見えている「移動の現場」。
そして、ヘルパー、看護師、医療ソーシャルワーカー、福祉用具事業者、医療機関など、それぞれの専門性をつなげていく。
「誰に頼めばいいのか」をケアマネさん一人が探すのではなく、
「この人が行きたい場所へ行くためには、何が必要なのか」をみんなで考える。
移動サポートネットワーク(ISN)は、そんな移動支援の仕組みをつくっていきたいと考えています。

