「なんでこっちの道に行くの?」
「いつもはこの道じゃないんだけど」
「遠回りしていませんか?」
介護タクシーの現場では、Googleマップが示したルートを走っているだけなのに、お客様を不安にさせてしまうことがあります。
乗務員からすれば、
「こちらの方が近いです」
「Googleマップではこちらの方が早いです」
という理由があるかもしれません。
しかし、お客様にとっては、それだけでは納得できないことがあります。
なぜなら、走る道は「時間」だけでなく「料金」「身体への負担」「安心感」にまで関わっているからです。
介護タクシーの仕事では、「最短ルートを走ればいい」とは限りません。
Googleマップでは、たどり着けないことがある
そもそもGoogleマップに住所を入力すれば、必ず正しい乗降場所まで案内してくれるとは限りません。
実際の現場では、
- 枝番まで正確に検索できない
- 建物の裏側に案内される
- 車では入れない道に案内される
- 建物には着いたものの入口が反対側
- 病院の患者乗降場所とマップ上の目的地が違う
といったことがあります。
介護タクシーの場合、普通の乗用車以上に注意が必要です。
車いすを降ろせる場所なのか。
リフトを展開できるスペースがあるのか。
ストレッチャーを安全に移動できるのか。
入口まで段差はないのか。
車両を安全に停車できるのか。
住所だけ分かっていても、「実際にどこから乗り降りするのか」まで分からなければ不十分な場合があります。
初めて伺う場所や分かりにくい場所では、あらかじめ入口を確認し、Googleマップ上にピンを記録しておくなど、次回のための情報を残しておくことも大切です。
「こっちの方が近いです」は、お客様には関係ない
もう一つ気をつけたいのがルートです。
Googleマップには複数のルートが表示されます。
乗務員は当然、
「早く到着できる道」
「距離が短い道」
を選びたくなります。
しかし、お客様には**「いつもの道」**がある場合があります。
そのとき乗務員が、
「こちらの方が近いですよ」
「この道の方が早いですよ」
と説明しても、お客様が納得するとは限りません。
お客様からすれば、
「なぜいつもの道を通らないの?」
「遠回りされているのでは?」
「料金が高くなるのでは?」
という不安につながることがあります。
タクシーでは、走行する距離や時間が料金に関係します。
だからこそ、ルートに関する認識の違いは、単なる「道の好み」の問題ではありません。
お金と信頼に関わる問題です。
だから出発前に聞く
トラブルを防ぐ方法は、決して難しいものではありません。
出発する前に、
「いつも通られている道はありますか?」
「こちらのルートで向かってよろしいでしょうか?」
と確認する。
たったこれだけでも、お客様の安心感は変わります。
「いつもの○○通りからお願いします」
と言われれば、そのルートを確認する。
特に希望がなければ、
「それでは道路状況を確認しながら向かいますね」
とお伝えして出発する。
走り始めてから説明するのではなく、走り始める前に確認する。
この順番が重要です。
介護タクシーでは「最短」が正解ではないこともある
さらに介護タクシーでは、一般的なタクシーとは違う視点が必要になります。
それがお客様の体調です。
Googleマップ上では最短ルートでも、
- 坂道が多い
- カーブが連続する
- 路面が荒れている
- 段差が多い
- 狭い道路で急停止が多くなる
- 渋滞で発進と停止を繰り返す
といった道路があります。
健康な人には何でもない道でも、車いすやリクライニング車いす、ストレッチャーで移動している方にとっては、大きな負担になることがあります。
「5分早く着く道」より、
「10分余計にかかっても、揺れの少ない道」
の方が適していることもあります。
だからルートを決める前に、もう一つやることがあります。
お客様を見ることです。
出発前の観察とコミュニケーションは、思っている以上に重要
介護タクシーの乗務員が診断をするわけではありません。
大切なのは、
「普段と違うところはないか」
を確認することです。
そして、その日の状態に合わせて移動方法や運転を考えることです。
① 意識・受け答え
まずは普通に声をかけます。
「おはようございます」
「今日は○○病院までですね」
その会話の中でも確認できることがあります。
受け答えは普段通りか。
ぼんやりしていないか。
会話が成立しているか。
特に重要なのは、**「いつもと比べてどうか」**です。
ご本人だけで判断が難しければ、ご家族や施設職員などから普段の様子を聞くことも大切です。
② 呼吸の様子
息苦しそうではないか。
呼吸が普段より速くないか。
会話をするだけで苦しそうではないか。
肩を大きく使って呼吸していないか。
酸素を使用している方であれば、必要に応じて機器や酸素の状態についても確認します。
明らかに普段と違う場合には、すぐ出発することだけを考えず、必要な確認を行うことが重要です。
③ 顔色・表情
「大丈夫です」
と言われても、表情を見ると明らかにつらそうなことがあります。
顔色は普段と違わないか。
冷や汗はないか。
強い苦痛の表情はないか。
言葉だけではなく、見た目の変化にも注意する。
これも観察です。
④ 姿勢・身体の状態
車いすやストレッチャーに乗った状態も確認します。
身体が傾いていないか。
ずり落ちそうになっていないか。
首が不自然な角度になっていないか。
痛みのある場所はないか。
「この姿勢で大丈夫ですか?」
と確認してから出発します。
特に長距離移動では、出発時の姿勢がその後の身体的な負担に大きく影響します。
⑤ 「今日の状態」を本人・家族に聞く
最後は、やはりコミュニケーションです。
「今日の体調はいかがですか?」
だけではなく、
「普段と変わったことはありませんか?」
「揺れると痛むところはありますか?」
「車に酔いやすくないですか?」
「いつも通っている道はありますか?」
こうした会話から得られる情報があります。
そして、その情報によって、
ルートを変える。
速度を調整する。
いつも以上に発進・停止を穏やかにする。
安全・安心のために何ができるか?
といった対応につなげます。
目的地を入力して、ナビ通りに走る。
それだけなら、多くの人ができます。
しかし介護タクシーや通院・外出支援で求められるのは、その一歩先です。
「この入口から安全に乗降できるだろうか?」
「この道は今日のお客様には負担が大きくないだろうか?」
「いつものルートはあるだろうか?」
「今日は普段と様子が違わないだろうか?」
「どう走れば安心してもらえるだろうか?」
そう考えてからハンドルを握る。
安全・安心のために、自分に何ができるかを考える。
そこが、一般的なタクシーとの差別化にもつながっていくのではないでしょうか。
「運ぶ」だけではなく、「その人に合わせて移動する」
介護タクシーの仕事は、人をA地点からB地点まで運ぶことだけではありません。
同じ病院へ行くとしても、その日の体調によって適した移動は変わります。
同じ目的地でも、お客様によって安心できるルートは違います。
だからこそ、
観察する。
聞く。
確認する。
その人に合わせる。
この積み重ねが大切です。
Googleマップが示してくれるのは、目的地までの「道」です。
しかし、
その人が今日、どうすれば安心して目的地まで行けるのか。
そこまで考えるのは、人の仕事です。
移動サポートネットワーク(ISN)は、こうした現場で培われた知識や工夫を共有し、すべての方が安心して移動できる環境づくりを進めていきます。

