介護施設に入居している方が病院を受診するとき、
「誰が病院まで付き添うのか」
という問題があります。
私たちは長年、介護タクシーや通院付き添いの仕事をしてきました。
その中で実際に、施設に入居されている方について、
「ご家族が付き添えないので、施設から病院まで連れて行って、診察にも付き添ってほしい」
というご相談を数多くいただいてきました。
一見すると、介護タクシーと付き添いスタッフを手配すれば解決できる問題のように思えます。
しかし、現場を長く見ていると、それほど単純ではありません。
家族にも事情があります。
施設にも事情があります。
医療機関にも事情があります。
そして、移動や付き添いを提供する事業者にも事情があります。
今回は、施設入居者の通院付き添いについて、私が実際に経験してきたことから考えてみたいと思います。
家族が通院に付き添えない理由はさまざまです
「家族なのだから、病院くらい付き添えばいいのではないか」
そう考える方もいるかもしれません。
しかし実際には、ご家族が対応できない理由はさまざまです。
私たちが付き添いを依頼されたケースでも、
- ご家族が遠方に住んでいて来ることができない
- 仕事があり、平日の受診に何時間も時間を割くことができない
- ご本人とご家族との関係が悪く、付き添うことが難しい
といった事情がありました。
家族関係については、他人にはなかなか分からない部分もあります。
施設に入居するまでには、そのご家庭なりの長い経緯があることもあります。
そのため、
「家族なんだから付き添うべきだ」
という一言だけでは解決できない問題なのだと思います。
施設職員が付き添えばいい、という問題でもありません
では、ご家族が行けないのであれば施設職員が付き添えばいいのでしょうか。
これも現実には簡単ではありません。
一人の入居者の通院に職員が付き添えば、その職員は数時間、施設を離れることになります。
病院の受診は、
「10時に予約しているから11時には帰ってこられる」
とは限りません。
診察、検査、会計、薬の受け取りなどで長時間になることもあります。
その間、施設では一人少ない人数で他の入居者を支えなければなりません。
施設職員だけでは対応が難しいケースもある
私たちが経験してきた中には、さらに対応が難しいケースもありました。
例えば認知症があり、興奮すると手が出てしまう方。
過去に病院を受診した際、診察中にその場を離れてしまい、行方を追わなければならなくなった方。
こうしたケースでは、単に「病院まで送迎する」だけではありません。
車から病院までの移動、受付、待合室、診察、会計、そして再び施設へ戻るまで、継続して見守る必要があります。
施設側としても、職員一人を長時間付き添わせることが難しかったり、状況によっては施設職員だけでは対応が難しかったりすることがあります。
こうしたときに、介護タクシーと通院付き添いサービスを利用するという選択肢が出てきます。
付き添いサービスは便利。でも費用という問題がある
介護タクシーと付き添いサービスを利用すれば、
施設へのお迎え
↓
病院への移動
↓
受付
↓
診察までの待機
↓
診察への付き添い
↓
会計などの支援
↓
施設までお送りする
といった一連の支援ができる場合があります。
ご家族が遠方にいる場合や、施設職員が付き添えない場合には、とても便利なサービスです。
ただし、大きな問題があります。
「費用」です。
施設入居者の介護保険サービスの扱いは、施設の種類や契約内容、通院先などによって異なります。
そのため、外部の介護タクシーや付き添いサービスを利用する場合、介護保険ですべて賄えるとは限らず、自費負担が必要になるケースがあります。
介護タクシーを利用して、さらに数時間の付き添いスタッフを依頼すれば、
「介護タクシーの運賃・料金+付き添いサービスの費用」
が必要になります。
決して軽い負担ではありません。
便利なサービスが存在していても、費用が理由で利用しにくい。
これは現在の通院・外出支援が抱えている課題の一つだと感じています。
だからといって、事業者が法外な料金を取っているわけではない
ここは、介護タクシー事業者として、ぜひ知っていただきたいところでもあります。
利用する側から見れば、
「病院に行くだけなのに、こんなにかかるの?」
と思われることもあるでしょう。
そのお気持ちも分かります。
しかし一方で、介護タクシーや付き添い事業者も、法外に高い料金を設定しているわけではありません。
車両を動かせば、車両に関するさまざまな経費が発生します。
そして付き添いスタッフが病院で3時間待てば、そのスタッフは3時間、別の仕事をすることができません。当然、その時間には人件費が発生しています。
安全に移動していただくための車両や機材も必要です。
事業者も継続してサービスを提供していくためには、必要な料金をいただかなければ運営することができません。
つまり、
「利用者側にとっては高い」
しかし、
「事業者側も簡単には安くできない」
という難しい問題があります。
複数の受診をうまく調整できれば負担を減らせないだろうか
私自身、施設からの通院依頼を受けながら考えることがあります。
例えば、同じ施設から同じ医療機関を受診する方が複数いらっしゃる場合です。
もし受診する曜日や時間帯などをある程度まとめることができれば、職員配置や付き添い、車両の運行などを効率化できる可能性があります。
結果として、一人ひとりの移動や付き添いに関する負担を抑える仕組みを考えられるかもしれません。
しかし、これも簡単ではありません。
医療機関には医療機関の診療体制があります。
患者さんごとに診療科も違えば、医師の診察日も違います。
施設側の都合だけで、
「この日にまとめて診察してください」
というわけにはいきません。
調整するためには、医療機関側にも新たな負担が発生します。
そして当然ですが、ご本人の病状や受診の必要性が最優先です。
効率だけを考えて受診日を決めることはできません。
誰か一人の問題ではないから難しい
施設入居者の通院付き添いについて考えていくと、私は結局ここに行き着きます。
ご家族にも事情があります。
施設にも人員配置などの事情があります。
医療機関にも診療上の事情があります。
介護タクシーや付き添い事業者にも、サービスを継続するために必要な人員とコストがあります。
誰かが悪いわけではありません。
だからこそ難しいのです。
「施設入居者の通院を誰が支えるのか」を地域で考える
高齢化が進めば、施設に入居する高齢者はもちろん、そのご家族自身が高齢になっているケースも増えていきます。
遠方に暮らす家族もいます。
仕事を簡単には休めない家族もいます。
さまざまな事情から、ご本人との関係が難しくなっている家族もいます。
そう考えると、
「通院の付き添いは家族がやればいい」
だけでは、これからますます解決できなくなっていくのではないでしょうか。
一方で、
「全部施設で対応してください」
でも持続するとは限りません。
そして、
「必要なら全部自費サービスを使ってください」
では、今度は費用負担の問題が出てきます。
私は、この隙間をどう埋めていくのかが、これからの移動支援における大きな課題の一つだと考えています。
施設、医療機関、介護・福祉関係者、移動事業者、そして地域。
それぞれが少しずつ連携することで、もっと利用しやすい通院・外出支援の仕組みをつくることはできないだろうか。
私たち移動サポートネットワークでも、単に「介護タクシーを手配する」というところだけではなく、こうした移動を取り巻く課題そのものについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

