介護タクシーの料金はどう設計する?

目次

1件あたりの原価から考える、長く続けるための料金設定

介護タクシーを開業するとき、多くの方が悩むのが「料金をいくらにするか」です。

近隣の介護タクシーのホームページを見て、

「基本介助が1,500円だから、自分も1,500円にしよう」

「車いす料金は、このくらいが相場なのかな」

このように料金を決めることもあると思います。

開業時には、まだ自社の実績がありません。

月に何件依頼があるのか、どのくらい走るのか、どんな依頼が多いのかも分かりません。

ですから、最初から完璧な料金設計をするのは難しいでしょう。

そこで、一番悩まずに済む方法があります。

地域で長く営業を続けている介護タクシー事業者の料金を参考にすることです。

長く続けられているということは、その地域で利用者から一定程度受け入れられ、その価格で事業を継続してきた一つの実績があります。

開業時には非常に参考になると思います。

ただし、事業を続けていくうえでは、それだけでは不十分です。

最終的には、

「他社はいくらなのか」から「自社はいくら必要なのか」

へ移行していく必要があります。

そのために知っておきたいのが、1件あたりの原価です。


介護タクシーの料金は「運賃」だけではない

まず整理しておきたいのは、介護タクシーで利用者からいただく金額は、すべて同じ性質のお金ではないということです。

大きく分けると、

  • タクシーとして移動するための運賃・料金
  • 乗降や移乗などの搬送・介助サービス料
  • 車いすやストレッチャーなどの機材使用料
  • 追加スタッフが必要な場合の料金
  • 待機や付き添いなど時間に対する料金
  • 階段介助など特殊な対応に対する料金
  • 営業時間外や休日など特別な対応に対する料金

などがあります。

福祉輸送限定のタクシーであっても、運賃・料金については営業地域を管轄する運輸局への所定の手続きがあります。

そのため、

「運送に対する料金」と「介助などのサービスに対する料金」を整理して考える

ことが料金設計の第一歩になります。


料金を「一式」で考えない

たとえば、

「車いすを利用している方を自宅から病院まで送る」

という仕事があったとします。

一つのサービスに見えますが、事業者側で行っていることを分解すると、

① 車両を利用者宅まで走らせる
② 利用者の状態を確認する
③ 必要に応じて車いすへの移乗を介助する
④ 自宅から車両まで移動を介助する
⑤ 車いすを車両に固定する
⑥ 病院まで運送する
⑦ 到着後に降車を介助する

という複数の業務があります。

さらに、

階段がある。

リクライニング車いすが必要。

ストレッチャーが必要。

スタッフが2名必要。

病院内まで付き添う。

となれば、必要な人員、機材、時間はさらに増えます。

これらをすべて「基本介助料金」だけで対応してしまえば、複雑な仕事になるほど事業者側の負担が増えてしまいます。


私は「足し算方式」が分かりやすいと思っています

料金設計にはさまざまな考え方がありますが、私は基本的に足し算方式で考えるのが分かりやすいと思っています。

基本的な考え方は、

タクシー運賃
+ 搬送サービス・基本介助料金
+ 機材使用料
+ 追加介助料金
+ 必要に応じた時間料金
+ 特別対応料金

です。

利用者の状態や搬送条件によってサービス内容が変わっても、それぞれの料金の意味が明確になります。

そして事業者側も、

「なぜこの料金になるのか」

を説明しやすくなります。


① タクシー運賃

まずはタクシーとしての運賃です。

距離制運賃、時間距離併用運賃、時間制運賃など、自社が認可を受けている運賃・料金に基づいて収受します。

介護タクシーは福祉サービスのように見える部分がありますが、福祉輸送限定であっても一般乗用旅客自動車運送事業です。

まずは自社がどのような運賃・料金の認可を受けているのかを正確に把握しておく必要があります。


② 搬送サービス・基本介助料金

次に、通常のタクシーにはない介護タクシー特有のサービスです。

たとえば、

車いす利用者の乗降介助。

車いすの固定。

玄関から車両までの移動介助。

利用者の状態確認。

病院や施設職員との引き継ぎ。

こうしたサービスを「基本介助」「乗降介助」「搬送サービス料」などとして設定している事業者があります。

名称そのものより重要なのは、

「その料金に何が含まれているのか」

を明確にしておくことです。


③ 機材使用料

介護タクシーでは、さまざまな福祉機材を使用します。

一般的な車いす。

リクライニング車いす。

ストレッチャー。

その他の搬送機材。

機材は購入したら終わりではありません。

清掃、消毒、保管、整備、修理、買い替えも必要です。

そのため、

「すでに持っている機材だから無料」

と考えるのではなく、

その機材をサービスとして維持するための料金

という考え方が必要になります。


④ 追加介助者料金

ここは特に見落としやすい部分です。

階段介助や体格の大きな利用者、重度の方の搬送などでは、1人では安全に対応できない場合があります。

その場合、スタッフをもう1人手配することになります。

自社スタッフであれば人件費が発生します。

他の介護タクシー事業者やヘルパーなどへ協力をお願いすれば外注費が発生します。

ところが、

基本介助料金の中から協力者への料金を支払う

という料金設計になっていると、応援を頼むほど自社の利益が少なくなります。

だからこそ、

1名で行う基本サービスと、2名以上必要なサービスは分けて考える

必要があります。

これは利益のためだけではありません。

適正な料金を設定することで、無理な1人介助を防ぎ、安全な搬送につなげる意味もあります。


⑤ 「介助」と「時間」は分けて考える

もう一つ重要なのが「時間」です。

たとえば病院受診では、

診察が終わるまで待つ。

検査に付き添う。

会計を待つ。

薬局へ行く。

施設まで戻る。

というケースがあります。

実際の介助そのものは数十分でも、スタッフが2時間、3時間拘束されることがあります。

ここでは、

介助という行為に対する料金と、スタッフが拘束される時間に対する料金は性質が違う

と考えた方が料金設計をしやすくなります。

待機、院内付き添い、貸切、長時間対応などについて、自社の料金体系を整理しておきましょう。


では、1件の仕事にいくら経費がかかっているのか

ここからが経営として重要な部分です。

料金を決める前に、一度、

「自社では1件の仕事をするために、実際いくらかかっているのか」

を計算してみます。

これが分かると、自社が設定すべき単価が見えやすくなります。

介護タクシーの経費には、

  • ドライバーの人件費
  • 会社負担分の社会保険料等
  • 燃料費
  • 車両購入費・リース料
  • 任意保険
  • 車検・整備費
  • タイヤなどの消耗品
  • 自動車税
  • 駐車場
  • 事務所
  • 電話・通信費
  • 配車・予約管理システム
  • ホームページ
  • 広告宣伝費
  • 会計・事務費
  • 管理者や事務スタッフの人件費

などがあります。

直接その搬送にかかる費用だけではなく、事業を維持するための固定費も考えなければなりません。


1件あたりの固定費を計算してみる

たとえば、事業全体で毎月100万円の固定費が発生しているとします。

月間500件の搬送を行っているなら、

100万円 ÷ 500件 = 2,000円

です。

つまり、単純計算では1件の仕事に2,000円ずつ固定費を負担してもらわなければ、固定費を回収できません。

そこに、

ドライバー人件費 1,500円
社会保険等     300円
燃料等       500円
固定費配分    2,000円

がかかったとすれば、

1件あたり原価は約4,300円

となります。

売上が5,000円なら、

5,000円-4,300円=700円

です。

5,000円すべてが利益ではないことが分かります。


事業規模によって原価は変わる

ここで、3つのモデルケースを見てみましょう。

※以下は料金設計の考え方を説明するための仮定の数字です。実際の経費は事業者によって異なります。

ケース① 1人・1台|月50件

月間固定費を15万円とします。

150,000円 ÷ 50件=3,000円

1件あたりの固定費は3,000円です。

さらに、

燃料等 500円
事業主本人の労働 2,000円

と考えれば、

1件あたり原価=約5,500円

となります。

ここで重要なのは、事業主本人の人件費をゼロにしないことです。

自分で運転していると、自分の労働を経費として考えなくなりがちです。

しかし、それでは事業として適正な料金なのか判断できません。


ケース② 月300件|スタッフを雇用する小規模事業者

月間固定費を90万円とします。

900,000円 ÷ 300件=3,000円

そこに、

ドライバー人件費 1,500円
社会保険等     300円
燃料等       500円

を加えると、

1件あたり原価=約5,300円

です。

平均単価が6,000円なら、

6,000円-5,300円=700円

しか残りません。

仕事はたくさん入っている。

スタッフも忙しく働いている。

それなのに会社にお金が残らない。

このようなことが起こる理由の一つです。


ケース③ 月800件|複数台・複数スタッフ

月間固定費を220万円とします。

2,200,000円 ÷ 800件=2,750円

さらに、

ドライバー人件費 1,500円
社会保険等     300円
燃料等       500円

なら、

1件あたり原価=約5,050円

です。

平均単価が6,500円なら、

6,500円-5,050円=1,450円

1件あたり1,450円が残る計算です。

800件なら、

1,450円×800件=116万円

となります。

ただし、実際にはここから予想外の車両修理、採用、教育、キャンセルなど、さまざまな費用や損失が発生します。

あくまで簡易的なシミュレーションです。


件数が増えれば儲かるとは限らない

ここで大切なのは、

「件数」と「利益」は別

ということです。

たとえば、

A社

月500件 × 平均単価5,000円
月商250万円

B社

月400件 × 平均単価7,000円
月商280万円

件数ではA社の方が100件も多いのに、売上ではB社の方が上です。

さらにB社の方が効率よく配車できているなら、利益ではもっと大きな差が出る可能性があります。

「今日は何件やった」

「今月は何件突破した」

という件数だけでは、本当の経営状態は分かりません。

1件あたりいくら売り上げ、いくら残ったのか。

ここを見る必要があります。


「1件あたり」と「1時間あたり」の両方を見る

さらに私は、

1件あたり原価だけでなく、1時間あたりの売上・原価も見る

ことをおすすめします。

同じ6,000円の売上でも、

30分で終了する仕事なら、

1時間換算12,000円

です。

一方、2時間拘束された仕事なら、

1時間換算3,000円

です。

同じ6,000円の仕事でも、経営上の意味はまったく違います。

しかも介護タクシーでは、お客様を乗せている時間だけが仕事ではありません。

営業所からお迎え先までの回送。

搬送終了後から次のお客様までの移動。

待機。

清掃。

こうした時間にも、人件費と車両費は発生しています。

そのため、

「お客様を乗せている時間」だけで採算を判断しない

ことも重要です。


追加スタッフを使う仕事は必ず計算する

特に計算しておきたいのが2名対応です。

仮に通常の1名対応で、

1件あたり原価5,000円

だったとします。

そこに追加スタッフを手配して、

追加人員に3,000円

かかったとします。

すると、

5,000円+3,000円=8,000円

です。

お客様からいただく総額が7,000円なら、

対応するたびに1,000円の赤字

になります。

だからといって、その仕事を受けてはいけないという意味ではありません。


赤字の仕事があってもいい。ただし下限値は知っておく

実際に事業を経営していれば、1件単位で赤字になる仕事はあります。

短距離だった。

予想以上に時間がかかった。

道路が渋滞した。

取引先との関係上対応した。

次の仕事につながる可能性がある。

さまざまな理由があります。

すべての仕事を1件単位で黒字にする必要はないと思います。

しかし、

自社の下限値を知ったうえで赤字の仕事を受けることと、知らずに受け続けることは全く違います。

「この仕事は利益が薄い」

「ここを下回ると赤字になる」

「今回はこの理由があるから、それでも対応する」

この判断ができることが経営です。


自社の「下限値」を持つ

たとえば計算した結果、

通常搬送なら最低5,000円。

2名対応なら最低8,000円。

長時間対応なら1時間あたり最低6,000円。

という数字が出たとします。

これは、そのままお客様へ提示する料金表という意味ではありません。

「これを下回ると、自社では利益を出すことが難しい」

という経営上の基準です。

この下限値を知っているだけでも、料金設定で悩むことはかなり少なくなります。


開業時は長く続いている事業者を参考にすればいい

とはいえ、開業時には1件あたり原価を正確に計算できません。

そこで、一番悩まずに済むのが、

長く営業を続けている地域の介護タクシー事業者の料金体系を参考にすることです。

ホームページやパンフレットなど、公表されている情報を調べます。

見るのは金額だけではありません。

基本介助には何が含まれているのか。
車いすはいくらなのか。
リクライニング車いすはいくらなのか。
ストレッチャーはいくらなのか。
階段介助はいくらなのか。
追加スタッフはいくらなのか。
待機・付き添いはいくらなのか。

ここまで比較します。

長く営業を続けている事業者の価格を基準にしてスタートし、実際に営業しながら自社の数字を蓄積する。

そして半年、1年と経過したところで、

自社の原価と料金を照らし合わせる。

この方法が現実的だと思います。


他社の料金は「答え」ではなく「スタート地点」

ただし、他社と同じ料金なら必ず利益が出るわけではありません。

1人で営業している事業者。

従業員を雇用している会社。

自宅を事務所にしている事業者。

営業所を借りている会社。

車両1台の事業者。

10台を保有している会社。

電話受付や配車担当者を置いている会社。

それぞれ原価構造が違います。

だからこそ、

他社の料金はスタート地点として参考にし、最終的には自社の数字で料金を決める。

これが重要になります。


料金設計は「いくら取れるか」ではなく「いくら必要か」

料金を考えるとき、

「お客様からいくらまでいただけるだろう」

という発想だけでは判断が難しくなります。

そうではなく、

このサービスを安全に提供するためには、いくら必要なのか。

スタッフに適切な給与を支払う。

必要な人員を配置する。

車両を整備する。

福祉機材を更新する。

困ったときには他の事業者へ応援をお願いする。

そして事業として適正な利益を残す。

そのためには、最低いくら必要なのか。

ここから考えます。

基本的な考え方はシンプルです。

原価 + 必要な利益 = 販売価格

です。


料金は一度決めたら終わりではない

開業時につくった料金を、そのまま何年も使い続ける必要はありません。

人件費は変わります。

燃料費も変わります。

車両価格も変わります。

保険料も変わります。

会社が成長すれば、管理や事務に必要な経費も増えます。

そのため、定期的に、

月間件数
平均単価
1件あたり原価
1時間あたり売上
人件費
車両費
固定費
平均対応時間

などを確認し、料金体系を見直すことが必要です。


安くすることが利用者のためとは限らない

介護・福祉の仕事をしていると、

「できるだけ安くしてあげたい」

という気持ちになることがあります。

その気持ちは大切です。

しかし、事業者が疲弊して廃業してしまえば、その地域から移動手段が一つなくなります。

スタッフの給与を上げられない。

車両を更新できない。

必要な機材を購入できない。

2名必要な搬送を1人で行わなければ採算が合わない。

それでは、安全で持続可能なサービスとは言えません。

適正な利益を確保することは、利用者とスタッフを守り、地域の移動手段を残すことにもつながります。


まとめ|料金表は経営方針そのもの

介護タクシーの料金は、

運賃
+ 搬送・基本介助
+ 機材
+ 追加人員
+ 時間
+ 特別対応

というように分解して考えると分かりやすくなります。

開業時には、地域で長く続いている事業者の料金体系を参考にする。

営業を始めたら、自社の数字を蓄積する。

そして、

1件あたり原価を知る。
1時間あたり原価を知る。
赤字になる下限値を知る。
必要な利益を加える。

ここまでできれば、料金は感覚ではなく数字で考えられるようになります。

1件ごとに赤字になる仕事があっても構わないと思います。

しかし、

「どこから赤字になるのか」を知らないまま仕事を受け続けることは避けなければなりません。

料金設計とは、単に「いくらいただくか」を決める作業ではありません。

安全に搬送する。

スタッフを守る。

車両や機材を維持する。

そして5年後、10年後も地域でサービスを提供し続ける。

そのための料金を考えることも、介護タクシー経営の大切な仕事です。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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