介護タクシーを長くやっていると、ときどきこんな運行を考えることがあります。
たとえば、朝8時にAさんの自宅へ迎えに行き、次にBさん、その次にCさんを乗せ、3人を同じ透析病院まで送る。帰りも病院から3人を乗せて、それぞれの自宅を順番に回って降ろしていく。
あるいは、車に複数の利用者を乗せて、A病院、B病院、C病院と順番に回って、それぞれの目的地で降ろしていく。
車両の定員に余裕があるのであれば、一人ずつ運ぶより効率がいい。利用者にとっても料金を抑えられる可能性がありますし、事業者にとっても車両を効率的に使えます。
特に透析送迎やデイサービス送迎を考えると、「一人ずつ送迎するのではなく、何人かを順番に迎えに行って一緒に運べないだろうか」と考えるのは自然なことだと思います。
しかし、ここには介護タクシー事業者が知っておいた方がいい法律上のポイントがあります。
それが「貸切」「相乗り」「乗合」の違いです。
介護タクシー、正確には福祉輸送限定の一般乗用旅客自動車運送事業は、基本的に「1個の契約によって、乗車定員11人未満の自動車を貸し切って旅客を運送する事業」とされています。これは一般のタクシーと同じ「一般乗用旅客自動車運送事業」という枠組みの中にあります。
ここがまず大切です。
介護タクシーの許可を持っているからといって、バスのような運行を何でも自由にできるということではありません。
たとえば、Aさんの自宅でAさんを乗せ、途中でまったく別の契約をしたBさんを乗せ、さらにCさんを乗せる。そしてAさん、Bさん、Cさんそれぞれから運賃を受け取る。
これを日常的なサービスとして行うとなると、単純な「一台の介護タクシーに複数人が乗っている」という話ではなくなります。
道路運送法では、一般乗用旅客自動車運送事業者が「乗合旅客の運送」をできる場合を限定しています。災害など緊急を要する場合や、一般乗合旅客自動車運送事業者では対応することが困難な一時的需要について国土交通大臣の許可を受けた場合などです。
ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
「複数人を乗せたら全部乗合になる」というわけでもありません。
たとえば、介護タクシーを利用する本人と家族が一緒に乗ることがあります。利用者さんと付き添いの方が同乗することもあります。
これを見て、「二人乗っているから乗合だ」とは通常考えません。
大事なのは単純な乗車人数ではなく、どのような契約で、その旅客を運送しているのかということです。
さらに現在は、一般のタクシーについて「相乗り」という制度もあります。
国土交通省は2021年にタクシーの相乗りサービス制度を導入しました。目的地の近い旅客同士を運送開始前にマッチングし、一台のタクシーに相乗りさせる仕組みです。
これは、運行途中でバスのように不特定の旅客を次々と乗せるものとは区別されています。国土交通省自身も、運送開始後に不特定の旅客が乗車できるバスとは異なる、タクシー独自の運送形態として説明しています。
関東運輸局にも、一般乗用旅客自動車運送事業における相乗り旅客運送についての取扱いが示されています。
ここまで見てくると、
「じゃあ介護タクシーでも3人を集めて運べるんじゃないか」
と思うかもしれません。
しかし、透析送迎のようなケースでは、もう少し慎重に考える必要があります。
たとえば毎週月・水・金の朝、Aさん、Bさん、Cさんの自宅を順番に回り、3人を同じ透析病院へ送るとします。
帰りも透析病院から3人を乗せて、それぞれの自宅を順番に回る。
しかもAさん、Bさん、Cさんがそれぞれ個別の利用者で、それぞれとの契約に基づいて運賃を受け取っている。
この運行を毎週繰り返すのであれば、単に「介護タクシーにたまたま3人乗っていた」という話とは性質が違ってきます。
バスのようにA病院、B病院、C病院を回りながら、それぞれ別の利用者を乗せたり降ろしたりする運行についても同じです。
「車の定員が8人だから8人まで乗せていい」というだけでは判断できません。
定員の問題と、どの事業許可・契約形態で運送しているかという問題は別だからです。
ここは介護タクシー事業者にとって非常に重要なところだと思います。
そして、さらに話が変わってくるのがデイサービスなどの送迎です。
道路運送法には一般乗用旅客自動車運送事業とは別に「特定旅客自動車運送事業」という制度があります。
特定旅客自動車運送事業は、特定の者の需要に応じて一定の範囲の旅客を運送する事業です。運輸局の介護輸送に関する資料でも、一定の介護サービス事業者が、対象となる利用者について、自宅等と介護報酬の対象となる医療施設等との間を送迎する場合などに、この制度が関係することが説明されています。
つまり、
「介護タクシーだからできるか、できないか」
だけで考えてしまうと、制度全体が見えなくなります。
誰が利用者なのか。
誰と運送契約を結んでいるのか。
誰が料金を支払うのか。
利用者それぞれから運賃を受け取るのか。
病院や介護施設が一括して契約するのか。
決まった利用者だけを反復して送迎するのか。
運送開始前に相乗りする利用者が決まっているのか。
こうした条件によって、一般乗用、相乗り、一般乗合、特定旅客など、検討すべき制度が変わってきます。
ですから、たとえば透析病院から、
「毎週月・水・金、患者さん3人をそれぞれの自宅から迎えて病院まで送ってください。帰りも3人を順番に自宅へ送ってください」
と言われた場合、
「うちは介護タクシーの許可を持っているから大丈夫です」
と、その場で判断するのは避けた方がいいでしょう。
反対に、
「複数人だから絶対にできません」
と決めつけるのも正確ではありません。
タクシーには相乗り制度がありますし、特定の需要に対応する特定旅客自動車運送事業という仕組みもあります。
つまり重要なのは、やりたい運行の実態を先に整理して、その運行に合った制度を確認することです。
私たち介護タクシー事業者は、どうしても「車両」「車いす」「介助方法」などに目が向きます。
もちろん、それらは非常に重要です。
しかし事業を大きくしたり、病院や施設との契約を増やしたりしていくと、「どう運ぶか」だけではなく、**「どの許可・どの契約で運ぶのか」**という知識も必要になってきます。
一人の利用者を自宅から病院まで送る仕事から、病院や施設と契約して複数人を定期的に送迎する仕事へ。
見た目には同じ「人を車に乗せて送る仕事」でも、法律上の整理は同じとは限りません。
特に透析送迎やデイサービス送迎は、毎週決まった曜日、決まった時間、決まった利用者という条件になりやすいため、事業として取り組むのであれば、契約を結ぶ前に管轄の運輸支局へ具体的な運行方法を示して確認しておくことをおすすめします。
「Aさんを乗せ、次にBさん、さらにCさんを乗せて病院へ行きたい。帰りも同じように送りたい」
この一文だけでは、できる・できないを決められません。
大切なのは、その裏側にある契約と運送の仕組みです。
介護タクシーの仕事は、利用者さんを安全に運ぶ技術だけでなく、こうした制度を理解することも事業者としての専門性の一つではないでしょうか。
皆さんの地域では、透析患者さんやデイサービス利用者さんの複数人送迎をどのような仕組みで行っていますか?
「うちではこうしている」という事例があれば、ぜひ共有していただきたいテーマです。

