親が入院し、治療が進んでくると、ある日「そろそろ退院後のことを考えましょう」と話が出ることがあります。
それまで治療のことだけで頭がいっぱいだったご家族にとって、退院後の生活を急に具体的に考えるのは簡単なことではありません。
特に40代、50代、60代は、自分自身も仕事をしていたり、家庭があったり、子どものことがあったりする中で、親の介護について考えなければならない世代です。
「母を家に帰してあげたい。でも、私は平日仕事がある」
「父は家にいるけれど、高齢なので母の身体を支えることは難しい」
「兄弟はいるけれど、遠方に住んでいる」
「そもそも退院後に何が必要なのか分からない」
こうした状況は決して珍しいものではありません。
退院について病院と話をしていると、「日中はどなたかいらっしゃいますか?」「通院の付き添いはできますか?」「ご家族で介助できますか?」など、家族の状況について聞かれることがあります。
ここで知っておいていただきたいのは、これは「家族ならどこまで介護できますか」と責任を求めるためだけの質問ではないということです。
退院後の生活を考えるためには、ご本人の身体の状態だけでなく、どのような家で暮らすのか、誰と暮らすのか、家族がどの時間帯なら対応できるのか、逆に何が難しいのかといった情報が必要になります。
たとえば、病院の中では歩行や車いすで問題なく移動できていても、自宅へ帰れば環境は大きく変わります。
玄関に階段があるかもしれません。廊下が狭いかもしれません。寝室が2階にあるかもしれません。トイレまで距離があるかもしれません。
そして、病院では周囲に医療・介護の専門職がいますが、自宅では日中一人になる可能性もあります。
だから退院支援では、「何ができるか」と同じくらい、「何ができないか」を把握することが大切です。
ところが、ご家族の立場になると「できません」とはなかなか言いづらいものです。
「娘なんだから私がやらなければ」
「できないと言ったら、冷たい家族だと思われるのではないか」
「家に帰してあげたいのだから、何とかすると言うしかない」
そんな気持ちから、「大丈夫です」「何とかします」と答えてしまうこともあるでしょう。
しかし、退院は一日だけの出来事ではありません。
退院した翌日から生活が始まります。
食事、排泄、入浴、服薬、着替え、移動、通院、買い物。必要になる支援はその方によって違いますが、それが1週間、1か月、半年と続いていく可能性があります。
だからこそ、退院前に考えておきたいのは「頑張ればできるか」ではなく、**「この生活を無理なく続けられるか」**ということです。
そして、ここでもう一つ大切なことがあります。
退院について分からないことが出てくるたびに、すべてを病院のソーシャルワーカーに聞かなければならない、というわけではありません。
もちろん、専門的な判断や制度、退院後の支援について相談することは大切です。
その一方で、ご家族だからこそ事前に整理できる情報もたくさんあります。
たとえば、「娘は平日の9時から17時までは仕事で対応できない」「父は自宅にいるが高齢なので身体介助は難しい」「玄関には3段の階段がある」「寝室は1階に用意できる」「月1回程度なら娘が通院に付き添える」といった情報です。
こうしたことを一度家族で整理しておくと、病院との話し合いも具体的になります。
そして、分からないことは無理に答えを出さなくても構いません。
「ベッドから車いすへの移乗を家族でできるか分からない」
「一人でトイレへ行けるのか分からない」
「自宅の玄関を車いすで通れるのか分からない」
「どのくらい介護サービスが必要なのか分からない」
それなら、「分からない」と整理しておけばいいのです。
できること、できないこと、分からないこと。
この3つに分けるだけでも、退院後に何を確認し、どこに支援が必要なのかが見えやすくなります。
私たちISN(移動サポートネットワーク)は、介護タクシーをはじめ、医療・介護・福祉など、移動支援に関わるさまざまな方々と接する中で、退院は「病院から自宅まで移動できれば終わり」ではないと感じています。
病院を出て、車に乗り、自宅へ移動する。自宅に着いたら車から降り、玄関を通り、必要であれば階段を越え、生活する場所まで移動する。そして翌日から、そこでの暮らしが始まります。
そのため、退院前からすべての答えを家族だけで出す必要はありませんが、家族にしか分からない生活の情報を整理しておくことは、その後の支援を考えるうえで大きな助けになります。
「娘だから全部やらなければ」と考える必要もありません。
「ここまではできます」
「これは難しいです」
「ここは分かりません」
この3つを整理して伝える。
それだけでも、病院や地域の支援者は、より現実に合った退院後の生活を一緒に考えやすくなります。
退院支援を誰か一人に任せるのではなく、ご本人、ご家族、病院、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、看護・介護職、福祉用具、移動支援など、それぞれが持っている情報をつないでいく。
そのための最初の一歩として、ISNではご家族が退院前に整理できる「退院前 家族確認シート」を作りました。
全部を埋める必要はありません。
分からないところは「分からない」で大丈夫です。
ご家族で一度確認し、必要に応じて病院や担当する支援者との話し合いにご活用ください。
退院前 家族確認シート
① ご本人について
氏名:______________
退院予定日:____年__月__日
退院後の予定:
□ 自宅
□ 家族宅
□ 施設
□ 転院
□ 未定
② 家族が対応できる時間
日中:
□ 家族がいる
□ 一人になる時間がある
□ ほぼ一人になる
□ 分からない
夜間:
□ 家族がいる
□ 一人になる
□ 分からない
家族が仕事・育児などで対応できない時間:
__________________
③ 自宅の環境
玄関の段差:
□ なし
□ あり
□ 分からない
階段:
□ なし
□ あり
寝室:
□ 1階
□ 2階以上
□ 未定
車いすでの移動:
□ できそう
□ 難しそう
□ 分からない
④ 家族ができること・難しいこと
食事:
□ できる □ 難しい □ 分からない
トイレ介助:
□ できる □ 難しい □ 分からない
入浴介助:
□ できる □ 難しい □ 分からない
着替え:
□ できる □ 難しい □ 分からない
ベッド・車いす間の移乗:
□ できる □ 難しい □ 分からない
服薬管理:
□ できる □ 難しい □ 分からない
⑤ 通院・外出
通院の付き添い:
□ 家族で可能
□ 毎回は難しい
□ 難しい
□ 分からない
移動手段:
□ 家族の車
□ 一般タクシー
□ 介護・福祉タクシー等
□ その他
□ 未定
⑥ 本人・家族の希望
本人が希望している生活:
__________________
家族が希望していること:
__________________
⑦ 今、一番分からないこと・不安なこと
__________________
__________________
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このシートは「家族だけで退院を決めるため」のものではありません。
ご本人とご家族の現在の状況を整理し、病院や地域の支援者と情報を共有しやすくするためのものです。
分からない項目を無理に埋める必要はありません。
「できる」「難しい」「分からない」を整理することから、退院後の生活を考えてみてください。
ISN(移動サポートネットワーク)

