他社の介護タクシー予約を受けても大丈夫?配車・紹介・電話代行と「搬送契約」の境界線

介護タクシー事業者同士で仕事をしていると、「その日は予約がいっぱいなので、知り合いの事業者を紹介します」「運転中で電話に出られないので、電話受付を代行してもらっています」といったことがあります。さらに地域で連携が進めば、一つの窓口で依頼を受け、対応できる事業者を探す共同コールセンターのような仕組みも考えられます。

こうした連携は、一人の事業者では対応できなかった依頼を地域全体で支えられるという大きなメリットがあります。一方で、事業者同士の連携が増えるほど、曖昧にしてはいけないことがあります。

それが、**「その搬送を、最終的にどの事業者が引き受けたのか」**ということです。

電話を受けたところ、予約を手配したところ、実際に移動支援を行うところがすべて同じ事業者であれば、それほど複雑ではありません。しかし、電話代行、紹介、共同配車などが入ってくると、それぞれが別になる可能性があります。

今回は、介護タクシー事業者同士で案件を紹介・代行するときに考えておきたい「搬送契約」と、利用者さんへの説明、そして事業者同士の信頼について考えてみます。

目次

電話を受けたところと、搬送を引き受ける事業者は同じとは限らない

福祉輸送限定の介護タクシーも、道路運送法上は一般乗用旅客自動車運送事業です。国から許可を受けた旅客自動車運送事業者として、利用者さんの移動を支援しています。

ここで大切なのは、「電話を受けること」と「搬送を引き受けること」を分けて考えることです。

たとえばA介護タクシーへの電話をコールセンターが代わりに受け、利用者さんから「10月10日の午前9時に、自宅から○○病院までお願いします」と依頼されたとします。コールセンターがA社の予約状況を確認し、「A介護タクシーのご予約として承りました」と受付し、実際の移動支援もA社が行うのであれば、コールセンターはA社の予約受付を代行し、A社が搬送を引き受けるという関係が比較的分かりやすくなります。

問題になりやすいのは、A社が対応できず、別のB社へ案件をつなぐ場合です。

利用者さんが知らないうちに別の事業者へ変わっていないか

A社が予約でいっぱいだったため、「当社では対応できませんが、対応できる事業者をお探ししましょうか」と利用者さんに確認し、B介護タクシーを紹介する。このような流れであれば、利用者さんも事業者が変わることを理解できます。

しかし、利用者さんはA社に依頼したつもりなのに、何の説明もないまま当日B社が迎えに来たとしたらどうでしょうか。

当然、「A介護タクシーにお願いしたはずなのに、なぜ違う会社が来たのだろう」と戸惑うでしょう。

介護タクシーの場合は、事業者が変われば条件まで同じとは限りません。運賃や介助料金、使用する車両や機材、対応できる介助の範囲などが違う可能性があります。A社から聞いていた料金とB社の料金が違ったり、お願いしていた機材が用意されていなかったりすれば、単に「違う車が来た」という問題では済みません。

そのため、別の事業者へ案件をつなぐのであれば、「A社では対応できないため、今回はB介護タクシーが担当します」と利用者さんに伝え、料金や介助内容など必要な条件を確認したうえで、了承を得て予約を確定することが大切です。

利用者さんがA社に依頼したつもりなのに、知らないうちにB社との予約に変わっている。

こうした状態は避ける必要があります。

共同コールセンターでは「受付窓口」と「運送事業者」を分けて考える

同じことは、複数の介護タクシー事業者が参加する共同コールセンターでもいえます。

たとえば病院から共同コールセンターへ、「明日10時に退院される方の介護タクシーをお願いできますか」と依頼が入り、コールセンターが加盟事業者の予約状況を確認したところ、C介護タクシーが対応できたとします。

この場合、電話を受けたのは共同コールセンターですが、実際に移動支援を行うのはC社です。だからこそ、「今回の搬送はC介護タクシーが担当します」と病院や利用者さんへ伝え、誰が搬送を引き受けたのかを明確にする必要があります。

予約完了通知などの書面を使用するのであれば、「受付窓口:共同コールセンター」「運送事業者:C介護タクシー」というように分けて記載しておけば、さらに分かりやすくなります。

共同受付の目的は、事業者側の都合だけで仕事を効率よく振り分けることではありません。利用者さんが安心して移動を依頼できることが前提です。そのためには、担当事業者だけでなく、事業者が変わることで料金や車両、介助、機材などの条件に違いがないかも確認する必要があります。

私たちは「請書」と「予約完了通知」で確認しています

私たちの会社では、法人からの依頼や貸切での予約については「請書」を発行しています。また、病院から転院や退院などの搬送依頼を受けた場合には、予約内容を記載した「予約完了通知」をFAXしています。

これは単なる事務処理ではありません。誰から依頼を受け、どの事業者が搬送を引き受け、いつ、どこからどこまで移動するのか。さらに、どのような車両や機材、介助が必要なのか、料金や支払方法はどうなっているのか。こうした内容を依頼者と事業者の双方が確認できる状態にしておくためです。

特に病院からの搬送依頼では、依頼する病院職員、実際に移動される患者さん、付き添うご家族、料金を支払う方など、一件の搬送に複数の人や組織が関係することがあります。

だからこそ、「電話で予約を受けたから大丈夫」で終わらせるのではなく、予約内容を双方が確認できる状態にしておくことには意味があると考えています。

こうした確認の仕組みは、一社での予約管理だけではなく、複数事業者による共同受付になれば、さらに重要になるでしょう。

代行案件を受ける側も確認が必要

ここまでは主に案件を出す側について書いてきましたが、代行案件を受ける側にも確認しておきたいことがあります。

介護タクシー事業者同士では、「明日のこの案件、行けませんか?」と声をかけられることがあります。自社の予定が空いていれば、そのまま「行けます」と返事をしたくなるかもしれません。

しかし、確認すべきなのは日時、乗車地、目的地だけではありません。

案件を出す側の事業者が、利用者さんにどこまで説明しているのか。

ここが非常に重要です。

利用者さんには自社が担当することが伝わっているのか。事業者が変更になることについて了承を得ているのか。料金は確認されているのか。必要な介助や機材は正確に引き継がれているのか。

こうしたことを確認せずに当日迎えに行き、「A社が来ると思っていました」「聞いていた料金と違います」「お願いした内容が伝わっていません」となれば、現場で対応するのは代行を受けた事業者です。

そのため、代行案件を受けるときには、「仕事を紹介してもらえる事業者か」ということだけではなく、利用者さんへの説明や条件確認をきちんと整えたうえで案件を引き継いでいる事業者なのかということも、連携先を考える重要なポイントになります。

案件を出す側がきちんと整えていれば、受ける側も安心して対応できます。そして受ける側にも確認する習慣があれば、双方でトラブルを防ぐことができます。

代行案件では「依頼元の信頼」も引き継いでいる

もう一つ、代行を受ける側が意識しておきたいことがあります。

利用者さんが最初に依頼した事業者には、それまでの利用実績や日頃の対応、病院や施設との関係などによって築かれてきた信頼があります。

その事業者から代行を依頼されたということは、単に一件の仕事を受けたというだけではありません。

依頼元の事業者が築いてきた信頼の一部も預かって対応している。

そう考える必要があると思います。

たとえばA社からB社へ代行を依頼した場合、利用者さんや病院から見れば、B社は「A社から紹介された事業者」です。そこでB社が約束した時間や条件を守らなかったり、説明が不十分だったり、利用者さんに不快感を与えるような対応をしたりすれば、B社だけの問題では終わらないことがあります。

「A社にお願いしたのに、紹介された事業者の対応がよくなかった」となれば、案件を任せたA社の信用にも影響する可能性があります。

だからこそ、代行を受ける側も「自社の仕事が一件増えた」という感覚だけではなく、「この事業者から信頼され、この利用者さんの移動を任されている」という意識を持つことが大切です。

これは案件を出す側も同じです。単に空いている事業者へ仕事を振るのではなく、自社の利用者さんや取引先を安心して任せられる事業者なのかを考える必要があります。

介護タクシーは地域の事業者同士が紹介や代行でつながることの多い業界です。そのため、一件の対応は利用者さんからの評価だけではなく、事業者間での信頼にもつながっていきます。

「紹介しても安心な事業者」「代行をお願いしても安心な事業者」と思ってもらえることは、長く連携していくうえで大きな価値があります。

料金の流れも曖昧にしない

共同受付や代行では、お金の流れについても整理しておく必要があります。

たとえばC介護タクシーが実際の移動支援を行い、利用者さんがC社へ運賃・料金を支払い、その後C社が共同コールセンターへ電話代行料やシステム利用料などを支払うのであれば、利用者さんが支払う運送サービスの対価と、事業者がコールセンターへ支払うサービス利用料を区別しやすくなります。

一方、共同コールセンターが利用者さんから搬送料金をまとめて受け取り、手数料を差し引いて担当事業者へ支払うような仕組みにする場合には、単なる電話受付や紹介とは異なる論点も出てくるため、契約関係や料金収受について慎重に制度設計する必要があります。

また、A社とB社の料金体系が同じとは限りません。事業者が変わるのであれば、どの事業者の運賃・料金が適用されるのかについても、利用者さんに分かるようにしておく必要があります。

「どのような状態で案件を引き継ぐか」が大切

介護タクシー事業者同士では、「今日うちはいっぱいだから、○○さん行ける?」というやり取りが日常的にあります。地域の移動を支えるためには、とても大切な連携です。

しかし、連携が広がれば広がるほど、紹介、電話受付、予約受付代行、配車・手配、実際の搬送を分けて考える必要があります。

誰が受付をしたのか、誰が搬送を引き受けたのか、利用者さんは担当事業者が変わることを知っているのか、料金や介助条件は確認されているのか。そして、その内容が受ける側の事業者へ正確に引き継がれているのか。

大切なのは、単に「誰から仕事をもらうか」ではありません。

「どのような状態で仕事を引き継ぐか」です。

案件を出す側には、利用者さんへの説明と条件確認を整えたうえで引き継ぐ責任があります。受ける側にも、その内容を確認し、依頼元の信用を損なわないように対応する意識が必要です。

そして共同コールセンターのような仕組みをつくるのであれば、これらを個々の事業者の感覚だけに任せるのではなく、共通のルールとして整えておくことが重要になります。

案件と一緒に、利用者さんとの約束と、依頼元が築いてきた信頼も引き継ぐ。

介護タクシーの紹介や代行では、この意識がトラブルを防ぎ、事業者同士が安心して連携できる関係につながるのではないでしょうか。


※本記事は、介護タクシー事業者向けに制度上・実務上の論点を一般的に整理したものです。個別の共同配車、電話代行、紹介サービス等について適法性を判断するものではありません。共同コールセンター等を構築する場合には、契約関係、料金収受、個人情報の取扱いなどを含め、具体的な仕組みを示したうえで管轄の運輸局・運輸支局や専門家へ確認してください。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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