介護タクシーの仕事は、どうしても午前中に集中しやすい傾向があります。通院の送りに加えて、転院や退院も午前10時前後に集中します。そのため、午前中はすでに予約でいっぱいなのに、さらに同じ時間帯の問い合わせが入ってくるということが珍しくありません。
前の記事では、なぜ転院・退院が午前10時前後に集中するのかについて書きました。今回はその続きとして、介護タクシー事業者側から見た「午後の予約をどう増やしていくか」について、私たちが実際にやってきたことをお話しします。
午前中がいっぱいなら、午後の時間をこちらから提案する
午前中がすでにいっぱいで依頼を受けられない場合、私たちの会社では、ただ「空いていません」とお断りするのではなく、「午後でしたら対応できます」と別の時間を提案します。
ただし、ここには一つ大きな前提があります。お客様が「午後に時間をずらしてでも、この事業者にお願いしたい」と思ってくださっていなければ、その提案は成立しません。
それは料金が理由かもしれませんし、サービスの質かもしれません。毎回安心して任せられるという信用や、長いお付き合いの中で築いた関係性かもしれません。何が選ばれる理由になるかは事業者によって違いますが、いずれにしても「この会社にお願いしたい」と思ってもらえる理由を、日頃から研ぎ澄ませていく努力が必要です。
事業者側の都合だけで「午前はいっぱいなので午後にしてください」と言っても、お客様にとってメリットがなければ別の会社を探すだけです。午後の予約を増やしたいのであれば、まずは時間をずらしてでも選んでもらえる事業者になることが先だと思います。
利用者には「病院は午前中に行くもの」から一度離れてもらう
もう一つ私が大切だと思っているのは、「通院は午前中に行かなければならない」という考えから、一度離れてもらうことです。
もちろん、午前中しか診察していない医療機関もありますし、検査や診療内容によって時間が指定されることもあります。しかし、実際には午後にも受診できるのに、長年の習慣として午前中に通っている方も少なくありません。
リピーターのお客様とは、車内でいろいろな話をします。通院の帰りであれば、
「今日は病院が混んでいたわ」
「病院は予約でも何時に終わるか全然分からないですよね」
「待っているだけで疲れたわ」という話になることもよくあります。
そうしたときに、こちらから営業トークのように午後受診を勧めるのではなく
「午後なら比較的空いていることもあるんですけどね」
「先生の中には、空いている時間の方が落ち着いて話ができるという方もいますしね」
と、会話の中で何気なく伝えていました。
大切なのは、「次から午後にしてください」と誘導することではありません。「そういえば午後に行くという方法もあるのか」と、お客様自身に選択肢として知ってもらうことです。
「午後診療のすすめ」を地道に伝えてきた
私たちの会社では、以前「午後診療のすすめ」という案内を作り、ポケットティッシュに入れてお客様にお渡ししていたことがあります。
これを配ったからといって、翌月から突然午後の予約が増えるわけではありません。こうした取り組みは、すぐに成果が出るものではないと思います。しかし、日々の車内での会話や案内を地道に続けていると、少しずつ午後に通院する方が増えてきます。
また、大学病院や総合病院への通院だけでなく、地域のクリニックへ行く予約も増えてきました。体調に変化があったときに、最初から大きな病院へ行くのではなく、まず地域のかかりつけ医やクリニックを受診するという流れは、医療機関が進めている役割分担という考え方とも合っています。
介護タクシー事業者からすれば、こうした地域のクリニックへの通院が増えることも、午後の需要を作る一つの要素になります。
午後の予約はリピーターになると安定する
午後予約の大きな特徴は、一度利用して良さを感じてもらえると、そのままリピーターになりやすいことです。
「午後に行ってみたら思ったより空いていた」「午前中より落ち着いて受診できた」「介護タクシーも希望の時間で予約できた」と感じてもらえれば、次回の診察も午後を選んでいただけることがあります。
通院は一度で終わるとは限りません。月に一度、数週間に一度、あるいは定期的に診察へ行く方もいます。その一件一件が午後の時間帯に定着していけば、単発の予約を毎日探し続けなくても、少しずつ先の配車が埋まるようになります。
午後の予定が安定している事業者は、最初から午後にたくさん需要があったわけではなく、こうしたリピーターを一人ずつ増やしてきた結果なのだと思います。
今が午前中だけでも、すぐに諦める必要はない
現在、予約のほとんどが午前中という事業者もいると思います。その状態から午後の予約を増やそうとしても、すぐには変化が見えないかもしれません。
利用者には長年の生活習慣がありますし、「病院へ行くなら朝」という感覚もあります。医療機関によっては午後の診療時間が短かったり、曜日が限られていたりすることもあります。そのため、午後予約を増やす取り組みは、短期間のキャンペーンではなく、根気よく続けるものだと私は考えています。
午前中に予約が取れなければ午後を提案する。車内で通院について話す機会があれば、午後という選択肢も伝える。案内を渡す。そして実際に午後を利用してくださった方には、どうだったかを聞いてみる。
そんな小さなことを繰り返しているうちに、少しずつお客様の行動が変わり、それがやがて配車表にも表れてきます。
組織になれば午前中の仕事だけでは維持ができない
私たちの会社では、おかげさまで、現在、毎日平均50件以上の搬送を行っています。この件数を午前中だけで行うことは現実的ではありません。車両もドライバーも、一日を通して稼働して初めて組織として維持していくことができます。
だからこそ、午前中に集中する需要をただ受け続けるだけではなく、午後にも安定した仕事を作っていく必要があります。
ただし、ここで間違えてはいけないのは、会社の稼働率を上げたいから午後へ誘導するという考え方です。それでは長続きしません。
お客様にとってもメリットがあり、運送する側にもメリットがあり、できれば医療機関側にもメリットがある。その重なる部分を探すことが重要です。
午後の方が待ち時間が短くなるかもしれません。落ち着いて診察を受けられるかもしれません。介護タクシーも予約しやすくなるかもしれません。混雑する午前中を避けられることで、医療機関側にとっても患者さんが分散することにつながる可能性があります。
そうした「みんなにとって少し良くなる方法」を、一人ひとりのお客様との関わりの中から見つけていくことだと思います。
午後予約を増やすとは、単に空きを埋めることではない
「午後の予約を増やす」というと、空いている時間をどう埋めるかという話に聞こえるかもしれません。
しかし、私がこれまでやってきて感じるのは、それだけではないということです。
午後の予約を増やすというのは、事業者の都合で空き時間を埋めることではなく、お客様に新しい選択肢を提供することです。その結果として、午前中に集中していた需要が少しずつ一日の中へ分散していきます。
そのためには、まず自分たちが選ばれる理由を作らなければなりません。料金なのか、サービスなのか、安心感なのか、対応力なのか、長く付き合ってきた信用なのか。それぞれの事業者が持っている強みを磨き続ける必要があります。
そして、お客様一人ひとりと向き合いながら、「この方にとって午後にするメリットは何だろう」「医療機関にとってはどうだろう」「私たちにとっても無理なく継続できる形だろうか」と考えていく。
簡単ではありませんし、すぐに結果が出る方法でもありません。しかし、そうした積み重ねがリピーターを増やし、午前中だけに仕事が偏らない、安定した介護タクシー経営につながっていくのだと思います。
転院・退院が午前10時前後に集中する理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。


