介護タクシー事業者のホームページを見ると、「24時間対応」「夜間・早朝対応」と案内している事業者が多くあります。
夜間に救急外来を受診した方や、そのご家族にとって、夜間でも相談できる介護タクシーがあることは大きな安心になります。
一方で、夜間対応を実際に継続するには、昼間と同じ料金や勤務体制のままでは難しいという問題があります。
今回は、私自身が個人事業者として夜間対応をしていた経験を踏まえながら、介護タクシーの夜間対応に必要な料金設計、勤務体制、ホームページ表記について考えます。
私が個人事業者だった頃の夜間対応
私が個人事業者として介護タクシーを運営していた15年から20年ほど前は、夜間の依頼にも通常料金とほとんど変わらない料金で対応していた時期もありました。
夜間の依頼で多かったのは、救急車で病院へ搬送されたものの、入院にはならず、自宅へ帰ることになった方の搬送です。
救急外来で診察や治療を受けた後、歩行が難しい、車いすを使用している、一般のタクシーでは帰れないといった理由から、病院の救急受付や夜間受付を通じて介護タクシーを依頼されます。
そのほか、以前から通院で利用していただいているお客様から、まれに夜間の依頼を受けることもありました。
当時は私自身が電話を受け、自分で車両を準備して出動していました。
冬場に介護タクシー車両に布団を持ち込んで休息をとりながら対応に当たったこともありました。
そのため、夜間対応に必要な人件費や待機費用を細かく計算することはなく、「困っている方がいるのであれば対応しよう」という気持ちで動いていた部分もあります。
しかし、事業が大きくなり、従業員を雇用する立場になると、同じ方法を続けることは難しくなります。
夜間の介護タクシーは一般タクシーと事情が異なる
一般のタクシーであれば、夜間でも駅や繁華街などで次のお客様を乗せられる可能性があります。
一方、介護タクシーの中心となる利用は、通院、入退院、転院、施設間移動などです。
夜間に依頼が集中するとは限らず、1件の依頼があるかどうか分からない状態で待機することになります。
また、実際の夜間対応では、運賃が発生する時間以外にも、次のような時間が必要です。
- 電話による身体状況や搬送条件の確認
- 着替えや出動準備
- 車庫までの移動
- 車両や機材の準備
- 病院までの回送
- 病院職員からの引き継ぎ
- 車いすやストレッチャーへの移乗
- 自宅内までの介助
- 帰庫後の清掃や機材整理
病院まで片道30分かかったとしても、その回送時間にお客様を乗せているわけではありません。
1件の搬送に対応するために、実際に運賃を収受する時間以上の拘束が発生することがあります。
夜間はオンコール対応が中心になる
介護タクシーの夜間対応は、一般タクシーのように車両を走らせながらお客様を探す形ではなく、依頼が入ったときに出動するオンコール型が中心になります。
しかし、オンコールであっても、対応する人は完全に自由な状態ではありません。
電話に出られる状態にしておく、飲酒を控える、遠方へ外出しない、すぐに車両を出せるようにするなど、一定の制約が生じます。
事業主本人が自分の判断で待機する場合と、従業員に待機を命じる場合とでは、考え方が異なります。
従業員に待機してもらう場合は、待機場所、呼び出し頻度、出動までに求める時間、行動上の制限などによって、労働時間に当たるかどうかを個別に検討する必要があります。
単に「自宅で待ってもらっているので労働時間ではない」と判断することは避けるべきです。
個人事業主本人と従業員では設計が異なる
個人事業主が自ら夜間対応する場合、労働基準法上の労働者とは立場が異なります。
自身の体調や翌日の予定を確認し、安全に運行できる範囲で対応を判断することになります。
ただし、事業主本人であっても、睡眠不足や疲労が蓄積した状態で運転を続けてよいわけではありません。
夜間に出動した翌朝に通院予約が入っていれば、睡眠時間が十分に取れないまま次の運行をすることになります。
事業主本人だから無理をしてもよいのではなく、安全運行を継続できるかどうかを基準に判断する必要があります。
一方、従業員に夜間対応を任せる場合は、労働時間、休憩、休日、割増賃金などの管理が必要です。
原則として午後10時から午前5時までの労働には、通常の賃金に対して25%以上の深夜割増賃金が必要です。時間外労働や休日労働と重なる場合は、それぞれの割増も含めて確認しなければなりません。
夜間対応を従業員へお願いするのであれば、単に「電話が来たら出てください」とするのではなく、次のようなルールを事前に整える必要があります。
- 夜間担当者を誰にするのか
- 待機時間をどのように扱うのか
- 待機手当を支給するのか
- 出動した時間をどのように記録するのか
- 深夜割増賃金をどのように計算するのか
- 翌日の始業時刻を変更するのか
- 夜間対応後に必要な休息時間をどう確保するのか
- 対応できない場合は誰に引き継ぐのか
会社として運用する場合は、社会保険労務士などの専門家にも確認し、就業規則や社内規程に反映することが望ましいでしょう。
夜間対応を通常料金で続けることが難しい理由
私が個人事業者だった頃は、夜間も通常料金とほとんど変わらない条件で対応していました。
しかし、従業員を配置して同じことを行えば、人件費が発生します。
夜間に1件の依頼があるかどうか分からなくても、電話受付や出動のために人を配置すれば、その時間に対する費用を考えなければなりません。
さらに、夜間に出動した従業員を翌朝から通常どおり勤務させれば、疲労や睡眠不足による事故の危険が高まります。
翌日の勤務を遅らせたり、別の従業員を配置したりすれば、そこにも費用が発生します。
夜間対応に必要となる主な費用には、次のようなものがあります。
- 夜間の電話受付にかかる人件費
- オンコール待機に対する手当
- 深夜割増賃金
- 病院までの回送時間と燃料費
- 夜間対応後の勤務調整
- 翌日の代替乗務員にかかる人件費
- 複数名介助が必要な場合の応援費用
- 協力事業者へ対応を依頼する場合の費用
これらを通常料金だけで吸収し続けることは、簡単ではありません。
安く設定しすぎると夜間専門のように認知される
開業当初は、依頼を増やしたいという気持ちから、夜間でも通常料金で対応したくなるかもしれません。
しかし、極端に安い料金で夜間対応を続けると、「夜でも安く来てくれる事業者」として認知される可能性があります。
夜間対応の評判が広がり、夜間専門の事業者のように依頼が集まるようになると、通常の昼間業務や翌日の予約に影響が出ます。
一度広まった料金のイメージを、後から変更することも簡単ではありません。
料金を変更した際に、「以前は通常料金だった」「前はもっと安かった」と言われる可能性もあります。
夜間対応を始める段階から、昼間の通常運行とは別のサービスとして考え、継続可能な料金と運用方法を設計しておくことが重要です。
夜間料金は自由に追加できるとは限らない
介護タクシーの運賃や運送に伴う料金は、事業者が自由に追加できるものではありません。
福祉輸送限定の一般乗用旅客自動車運送事業では、新たに運賃を設定する場合や、現在の運賃を変更する場合に、所定の認可申請手続きがあります。関東運輸局でも、福祉輸送限定事業者向けの運賃設定・変更手続きや申請様式が公開されています。
そのため、「夜間だから一律で数千円を追加する」と事業者だけで決めるのではなく、自社が認可を受けている運賃・料金と適用方法を確認する必要があります。
夜間対応の料金を考える際は、少なくとも次の二つを分けて整理します。
運送に対する運賃・料金
距離制運賃、時間制運賃、迎車料金、予約料金、深夜・早朝割増など、車両による運送に直接関係する料金です。
これらは、自社が認可を受けている運賃・料金に基づいて収受する必要があります。
運送以外の介助サービス料金
基本介助、室内介助、階段介助、院内付き添い、複数名介助など、運送とは別に提供するサービスの料金です。
ただし、名称だけを「夜間介助料」などにして、実質的には認可を受けていない夜間運賃を収受するような設計は避けなければなりません。
運賃・料金と介助サービスの区分が判断しにくい場合は、実際に導入する前に管轄の運輸支局へ相談することをおすすめします。
「24時間対応」という表示にも注意する
介護タクシーのホームページでは、「24時間対応」と案内している事業者が多く見られます。
しかし、24時間電話を受け付けていることと、24時間いつでも必ず出動できることは同じではありません。
実際の運用には、次のような違いがあります。
- 24時間電話を受け付ける
- 夜間は事前予約だけ受け付ける
- 夜間はオンコールで対応する
- 車両と乗務員に空きがある場合だけ対応する
- 対応できない場合は協力事業者を案内する
- 深夜帯は翌朝以降の予約相談だけ受け付ける
そのため、単に「24時間対応」とだけ掲載すると、利用者から「電話をすれば必ずすぐに来てもらえる」と受け取られる可能性があります。
例えば、次のように条件を添えて案内すると、実際の運用との違いを減らせます。
夜間・早朝のご相談にも対応しています。
夜間はオンコール対応となるため、車両や乗務員の状況によってはお受けできない場合があります。
夜間のご利用は、可能な限り事前にご相談ください。
または、受付時間と運行時間を分けて表示する方法もあります。
電話受付:24時間
夜間運行:事前予約または対応可能な場合に限ります
ホームページの表現は、実際に提供できる体制と一致させることが大切です。
夜間対応を始める前に決めておきたいこと
夜間対応は、依頼が入ってから考えるのではなく、事前に仕組みを決めておく必要があります。
最低限、次の項目を整理しておきましょう。
対応時間
何時から何時までを夜間または深夜とするのかを決めます。
受付方法
電話を24時間受けるのか、留守番電話にするのか、コールセンターへ転送するのかを決めます。
予約条件
事前予約のみとするのか、当日の救急外来からの依頼も受けるのかを決めます。
対応者
事業主本人が対応するのか、従業員が交代で担当するのか、協力事業者へ相談するのかを決めます。
出動条件
翌日の予約状況、移動距離、必要な機材、介助人数など、対応可否を判断する基準を決めます。
料金
認可された運賃・料金の適用方法と、運送以外の介助サービス料金を分けて整理します。
翌日の勤務
夜間に出動した人の翌日の始業時刻や勤務内容を、どのように調整するかを決めます。
対応できない場合
協力事業者を紹介するのか、病院や家族へ対応できないことを伝えるだけにするのかを決めます。
1社ですべてを背負わない仕組みも必要
夜間対応を1社だけで24時間365日続けることは、大きな負担になります。
特に1人または少人数で運営している介護タクシー事業者が、昼間の通院対応を行いながら、夜間の救急外来からの帰宅搬送にも対応し続けることは容易ではありません。
地域の事業者同士で、対応できる時間帯、車両、機材、対応地域などを共有しておけば、自社で対応できないときに相談できる可能性があります。
ただし、事業者間で依頼を引き継ぐ場合は、次の点を明確にしておく必要があります。
- 誰が利用者へ料金を説明するのか
- 誰が正式に予約を受けるのか
- 利用者情報をどのように共有するのか
- 搬送上の注意事項をどのように引き継ぐのか
- 事故やトラブルが起きた場合の責任範囲
- 紹介料や手数料を設ける場合の取り扱い
地域全体で夜間対応を支えるには、単に連絡先を交換するだけではなく、一定の運用ルールが必要です。
夜間料金は利益を上げるためだけのものではない
夜間料金を設けると、「困っている人から高い料金を取るのか」と思われることがあるかもしれません。
しかし、夜間料金は単に利益を増やすためのものではありません。
夜間に対応できる人を確保し、適切な休息を取り、車両を安全に運行し、翌日の通常業務も継続するために必要な費用を反映するものです。
通常料金のまま無理を続けた結果、事業者が疲弊し、最終的に夜間対応そのものをやめてしまえば、地域の利用者は移動手段を失います。
適切な料金を設定し、対応条件を明確にすることは、夜間サービスを長く継続するために必要な仕組みでもあります。
夜間料金は事前に十分説明する
夜間対応に必要な費用を料金へ反映させることは、サービスを継続するために必要です。
しかし、夜間料金について十分な説明をしないまま請求すると、利用者やご家族から「聞いていた料金と違う」「夜間だから高額な料金を請求された」と受け取られる可能性があります。
事業者側に正当な理由があったとしても、説明が不足していれば、「ぼったくり事業者」というレッテルを貼られてしまう恐れもあります。
特に夜間の救急外来からの帰宅では、利用者やご家族が不安や疲労を抱えていることが少なくありません。
電話を受けた時点で、少なくとも次の内容を分かりやすく説明する必要があります。
- 夜間に適用される運賃や料金
- 迎車料金や予約料金の有無
- 基本介助や室内介助にかかる料金
- 階段介助や複数名対応が必要な場合の追加料金
- 待機が発生した場合の料金
- 現時点での概算料金
- 現場の状況によって金額が変わる可能性
口頭で説明するだけでなく、可能であればSMSやメールなどで概算料金を伝え、利用者やご家族が確認できる状態にしておくことも有効です。
夜間は急な依頼が多いため、説明を省略したくなる場面もあります。
しかし、急いでいるときほど、料金の説明と同意を丁寧に行うことが、後のトラブル防止につながります。
夜間対応は、料金だけを決めれば完成するものではありません。
電話を受けたときの確認項目、料金の伝え方、対応可否の判断、現場で提供する介助、搬送後の精算まで、一連の流れとして設計する必要があります。
夜間料金について誤解を招かないためにも、電話対応から実際のサービス提供、料金の請求までを含めた夜間対応全体の仕組みを作りましょう。
私の経験から感じること
私が個人事業者だった頃は、自分で電話を受け、自分で出動していたため、夜間も通常料金で対応できていました。
しかし、それは人件費や待機費用を十分に計算したうえで成り立っていたというより、事業主本人が自分の時間と体力を使って対応していた面が大きかったと思います。
従業員を雇用し、会社として夜間対応を続けるのであれば、同じやり方では成り立ちません。
従業員には賃金を支払い、休息を確保し、翌日の勤務も調整しなければなりません。
個人事業主本人が無理のない範囲で対応する夜間運行と、組織として提供する夜間サービスは、別のものとして考える必要があります。
昔は通常料金でできたから、現在も同じ料金でできるとは限りません。
事業規模や雇用体制が変われば、料金と運用方法も変えていく必要があります。
まとめ
介護タクシーの夜間対応には、救急外来から自宅へ帰る方など、昼間とは異なる重要な需要があります。
一方で、夜間は依頼件数が安定せず、電話受付、待機、回送、車両準備、介助、帰庫後の作業など、実際に運賃を収受する時間以上の拘束が発生します。
事業主本人が対応する場合でも、安全運行のために睡眠や疲労を考慮しなければなりません。
従業員に対応してもらう場合は、深夜割増賃金、労働時間、待機の扱い、翌日の勤務調整などを含めた労務設計が必要です。
また、夜間に関する運賃や料金を独自に追加するのではなく、自社が認可を受けている内容を確認し、必要に応じて運輸支局へ相談することが大切です。
重要なのは、「24時間対応」とホームページに書くことではありません。
- 何時まで受け付けるのか
- 誰が対応するのか
- どのような条件で出動するのか
- どの料金を適用するのか
- 翌日の安全をどのように確保するのか
- 対応できない場合にどうするのか
これらを明確にし、安全面、労務面、経営面のすべてにおいて継続できる仕組みを作ることが大切です。
夜間対応は、事業者の善意や責任感だけに頼るのではなく、一つのサービスとして設計する必要があります。
※本記事は、介護タクシー事業の運営経験に基づく一般的な情報です。個別の運賃・料金、勤務体制、待機時間の取り扱いについては、管轄の運輸支局、労働基準監督署、社会保険労務士などへご確認ください。

