「看護師さんが一緒に乗ってくれる介護タクシーがあるらしい」
そんな話を聞いたことはありませんか?
2026年10月、愛知県で看護師が始めた「ナースタクシー」の取り組みがニュースになりました。
病院への通院や転院だけでなく、施設にいる家族に会いに行くことや、お葬式への参列など、これまで外出を諦めていた方の希望をかなえようという取り組みです。
私は2004年から20年以上、介護タクシーの仕事に携わってきました。
その経験から感じるのは、移動を必要としている方の中には、単に車いすで乗れる車があれば外出できる、というわけではない方も多いことです。
「移動中に吸引が必要になったらどうしよう」
「酸素を使っているけれど、外出しても大丈夫だろうか」
「体調が変わったとき、誰が対応してくれるのだろう」
こうした不安があると、車両が見つかっても外出を決断できないことがあります。
今回は、話題のナースタクシーについて、介護タクシーや民間救急との違い、看護師が必要になるケース、利用するときの注意点を解説します。
ナースタクシーとは?
ナースタクシーとは、一般に看護師が運転や付き添いを担当し、医療・看護の知識を生かして移動を支援するサービスのことです。
ただし、「ナースタクシー」という名称だけで、全国共通の資格要件や提供サービスが決まっているわけではありません。
看護師自身が運転する事業者もあれば、運転手とは別に看護師が同乗する事業者もあります。
車両の設備や対応できる医療処置も、それぞれ異なります。
そのため、ナースタクシーという名前だけで判断するのではなく、実際にどのようなサービスを提供しているのか確認することが大切です。
介護タクシー・ナースタクシー・民間救急は何が違う?
この3つの言葉は、同じようなサービスを指すこともあるため、混同されやすいものです。
まず、介護タクシーは、車いすなどを利用する方の通院や外出を支援するサービスです。
乗降介助や移動中の見守りなどに対応する事業者もありますが、提供内容は事業者によって異なります。
一方、ナースタクシーは、看護師が関わることを特徴としています。
医療的な観察やケアが必要な方にとって、看護師が付き添うことは安心材料の一つになります。
そして民間救急は、一般に緊急性のない患者さんの搬送を行うサービスを指します。
消防本部から「患者等搬送事業者」として認定を受けている事業者もあります。
ここで知っておいていただきたいことがあります。
民間救急だから必ず看護師が乗っているわけでも、介護タクシーだから看護師が乗れないわけでもありません。
一つの事業者が、介護タクシー、看護師付き添い、患者等搬送事業を組み合わせて提供している場合もあります。
つまり大切なのは、サービスの名前ではなく、利用者さんの状態に対して必要な人員と設備が整っているかどうかです。
看護師が必要になるのはどんなとき?
例えば、次のようなケースでは、看護師による付き添いを検討することがあります。
1. 移動中に喀痰吸引が必要になる可能性がある
痰を自分で出すことが難しく、移動中にも吸引が必要になる方がいます。
喀痰吸引は原則として医行為に当たり、実施できる人や条件が定められています。
一定の研修を受けた介護職員等が、法令上の条件を満たして実施できる場合もありますが、すべての介護タクシー乗務員が対応できるわけではありません。
必要な処置の内容や頻度を医療機関と確認し、対応可能な専門職の同行を検討することが重要です。
2. 酸素療法を継続している
在宅酸素療法を利用している方も、介護タクシーで移動することがあります。
ただし、酸素を使用しているから必ず看護師が必要、というわけではありません。
利用者さんの状態が安定しているか、移動中にどのような管理が必要か、急変リスクがどの程度あるかによって判断は変わります。
酸素流量の変更など、医療上の判断が必要な対応については、事前に医師や看護師と調整する必要があります。
3. 点滴などの継続的な医療管理が必要
転院搬送などでは、点滴を継続したまま移動することがあります。
点滴の管理やトラブル時の対応が必要であれば、看護師など適切な医療職の同行を検討する必要があります。
4. 体調変化のリスクが高い
医療機器を使用していなくても、利用者さんの状態によっては、移動中の観察や専門的な判断が重要になる場合があります。
例えば、呼吸状態が不安定な方や、移動によって症状が悪化するおそれがある方です。
このようなケースでは、主治医や搬送元の医療スタッフと相談し、安全に移動できる条件を確認することが欠かせません。
なお、看護師が同行する場合でも、すべての医療行為を自由に行えるわけではありません。医師の指示が必要な行為や、実施体制に関する条件があります。
看護師がいれば、どんな患者さんでも運べる?
ここは特に注意していただきたいところです。
答えは「いいえ」です。
看護師が同乗していても、対応できる医療行為、使用できる機材、車両設備には限界があります。
また、看護師が乗っているからといって、救急車と同じ役割を担えるわけではありません。
民間の患者搬送車両は、基本的に緊急性のない方の移動を対象としています。
緊急性のある症状や生命の危険が疑われる場合には、119番への通報など、適切な救急対応が必要です。
「看護師がいるから安心」ではなく、「利用者さんの状態に合った体制が整っているから安心」という考え方が大切です。
ケアマネジャー・MSWが確認しておきたいこと
看護師付き添いの搬送を手配する際、最初からすべての医療的な判断を行う必要はありません。
ただし、次のような情報が整理されていると、搬送事業者は対応の可否を判断しやすくなります。
- 移動の目的と予定日時
- 現在の身体状況や移動中の注意点
- 酸素、吸引、点滴などの医療的ケアの有無
- 医療処置が必要な場合の医師の指示内容
- 必要な車両や機材
- 看護師などの同行者が必要か
- 搬送元・搬送先の受け入れ体制
- 費用負担と追加料金の確認
例えば「酸素を使用しています」という情報だけでは、必要な体制を判断しきれない場合があります。
実際にどのような管理が必要なのか、誰が対応するのかを確認することで、安全な移動につながります。
利用者さんやご家族から直接予約する場合も、分かる範囲で伝えていただければ、必要な確認事項を事業者から案内できるでしょう。
本当に大切なのは、看護師が必要かどうかを適切に判断すること
ここで、少し考えてみていただきたいことがあります。
利用者さんが車いすを使っているからといって、必ず看護師が必要になるわけではありません。
一方、歩くことができる方でも、医療的な管理が必要であれば、看護師の付き添いが望ましい場合があります。
つまり、歩けるか、車いすか、ストレッチャーかという移動方法だけでは、必要な支援を判断できないのです。
看護師が必要なのか。
介護職による付き添いで対応できるのか。
介護タクシーの乗務員だけで安全に移動できるのか。
それぞれの専門性を理解し、利用者さんの状態に応じて選択することが重要です。
必要のないサービスまで手配すれば、利用者さんやご家族の費用負担も大きくなります。
反対に、必要な専門職を手配しなければ、安全面での問題が生じるおそれがあります。
安全性と費用の両面から、適切な体制を考えることが求められます。
「移動できる」ことは、人生の選択肢が増えること
今回のナースタクシーのニュースで、私が特に印象に残ったのは、通院や転院だけではなく、家族に会いに行くことや葬儀への参列など、日常の大切な外出を支えようとしている点です。
介護タクシーの利用目的というと、どうしても病院への通院や退院が中心になりがちです。
しかし、本来、移動は生活そのものにつながっています。
家族に会いたい。
久しぶりに外食したい。
お墓参りに行きたい。
思い出の場所をもう一度訪ねたい。
そうした希望を持っていても、身体的な理由や医療的な不安によって外出を諦めている方がいます。
介護タクシーや看護師付き添いサービスは、そんな方々の希望を実現するための選択肢になり得ます。
大切なのは、一つの事業者がすべてを抱え込むことではありません。
介護タクシー事業者、看護師、介護職、医療機関などが、それぞれの専門性を生かして連携することです。
ISNが目指す移動支援
移動サポートネットワーク(ISN)では、介護タクシー事業者だけでなく、医療・介護・福祉に関わる専門職との連携を大切にしています。
すべての介護タクシー事業者が、看護師を雇用したり、専門的な医療機材を保有したりすることは現実的ではありません。
しかし、必要なときに看護師や他の事業者と適切に連携できれば、自社だけでは対応が難しかった移動を支援できる可能性が広がります。
そのためには、情報共有や役割分担、対応できる範囲の明確化が欠かせません。
移動の課題を、特定の事業者だけの問題にしないこと。
必要な専門職が、必要な場面で力を発揮できる仕組みをつくること。
それが、私たちが目指している移動支援の一つの形です。
看護師が付き添うナースタクシーも、そうした連携の選択肢の一つだと考えています。
皆さんの現場では、介護タクシーの移動に看護師の付き添いが必要だと感じたことはありますか?
どのようなケースで判断に迷ったか、ぜひ経験を共有していただければと思います。

