20年以上続けてわかった「お客様が離れない仕組み」
弊社フレンドシップタクシーのリピート率は約90%です。5年、10年、15年と利用を続けてくださる方は珍しくなく、中には開業当初から20年以上利用してくださっているお客様もいます。
こう書くと、昔から接客が得意で、お客様との関係づくりを大切にしてきたように思われるかもしれません。
実際は、その反対でした。
開業当初の私は、お客様と上手に話すことができませんでした。介護タクシーという仕事ですから、当然お客様と一緒に過ごす時間があります。しかし搬送中も、必要なこと以外はほとんど話せないことがありました。
周りを見ると、お客様と楽しそうに話をしている人もいます。「接客業なのだから、もっと話せた方がいいのではないか」「こんな接客でいいのだろうか」と、自分の中ではずっと気になっていました。
あるとき、そのことを先輩に相談しました。
すると、
「でも、お客さん減ってないんでしょ? だったら、無理に話さなくてもいいんじゃない?」
と言われました。
さらに、
「あまり話さなくても、誠実にやっていることは伝わっているから、また来てくれているんだよ」
と言っていただきました。
この言葉には、とても救われました。
そして振り返ってみると、確かにお客様は離れていませんでした。
私は会話が上手だったわけでもありません。気の利いたことを言えるわけでもない。それでも約束した時間に行き、必要な介助を行い、安全に目的地までお送りし、料金や予約についてきちんと説明する。自分なりに一件一件、誠実に仕事をしていました。
それで次も電話をいただけているのであれば、無理に自分ではない接客をする必要はないのかもしれない。
この経験は、その後の私の接客に対する考え方に大きく影響しました。
20年以上経った現在、弊社がリピートを考えるうえで大切にしているのは、大きなプラスをつくることより、マイナスをつくらないことです。
そして、リピートをドライバー個人の話術や人柄、営業力に頼るのではなく、お客様が安心して利用を続けられる仕組みをサービスそのものに組み込むことを重視しています。
話すことが「良い接客」とは限らない
接客業では、お客様との距離を縮めることが良いことだと考えられがちです。たくさん会話をして、親しくなって、名前を覚えてもらう。それによって喜んでくださるお客様も、もちろんいます。
ただ、提供する側が良いサービスだと思っていることと、お客様が求めていることは必ずしも同じではありません。
分かりやすいのが美容室です。
女性から「美容室でずっと話しかけられると疲れる」という話を聞くことがあります。
お客様として料金を払って髪を切りに行っているのに、美容師さんから次々と話しかけられる。無視するわけにもいかないので相づちを打ち、話題を考え、会話を続ける。美容師さんとしては楽しい時間を提供しているつもりでも、お客様からすると、いつの間にか自分が美容師さんの話し相手をしているような状態になり、気を使って疲れてしまう。
これは介護タクシーでも同じです。
むしろ介護タクシーでは、会話の量だけではなく、話し方や態度、何気なくかける一言についても慎重に考える必要があります。
例えば、病気や治療に不安を抱えている方に、励ますつもりで「大丈夫ですよ」「きっと治りますよ」と声をかけたとします。
言った本人に悪気はありません。元気づけたいという善意から出た言葉でしょう。
しかし、その方がどのような診断を受け、どのような思いで病院へ向かっているのかを、私たちはすべて知っているわけではありません。すでに厳しい説明を受けているかもしれません。
そんなときに「治るから大丈夫」と言われたら、「何も知らないのに、なぜそんなことが言えるのか」と感じる方がいても不思議ではありません。実際、良かれと思った励ましが相手を怒らせてしまうこともあります。
こちらの善意と、お客様がどう受け取るかは別のものです。
だから弊社では、車内でドライバー側から必要以上にプライベートな話をしないことを基本にしています。病気について安易な評価や励ましもしません。
もちろん、お客様から話しかけてくだされば普通に会話をします。話すことが好きな方であれば、その方に合わせればいい。不安なことを話してくだされば、きちんと耳を傾けます。
大切なのは、こちらから無理に距離を縮めないことです。
挨拶をする。必要な説明をする。丁寧に介助する。質問されたことには誠実に答える。
お客様が話したければ話せるし、静かに過ごしたければ静かに過ごせる。
お客様との距離感は、ドライバーではなくお客様に決めてもらう。
開業当初、話すことが苦手だった私が悩んだ末にたどり着いたのは、話が上手であることと、良いサービスを提供することは必ずしも同じではないということでした。
お客様は不満があっても教えてくれない
私たちが「プラスを増やす」より「マイナスを減らす」ことを重視するのには、もう一つ理由があります。
お客様は、不満があったとしても必ずクレームを言ってくれるわけではないからです。
時間に少しルーズだった。電話対応が少し雑だった。前回伝えたことが共有されていなかった。料金の説明が分かりにくかった。ドライバーによって対応が違った。聞かれたくないことまで聞かれた。
一つひとつは、わざわざ会社へ電話して苦情を言うほどではないかもしれません。
しかし、お客様にはもっと簡単な選択肢があります。
次回、別の介護タクシーへ電話すればいい。
「もう利用しません」と教えてくださるわけではありません。ただ、電話がかかってこなくなります。
だから、クレームがないから満足しているとは限りません。
リピート率を上げるのであれば、「もっと何をしてあげられるだろう」と考えるだけではなく、**「お客様が次回電話をかけたくなくなる理由が、どこかにないだろうか」**と考える必要があります。
そして見つかった問題を、「次から気をつけよう」という精神論だけで終わらせず、できるだけ仕組みに変えていくことが大切だと考えています。
次回予約も「また電話してください」で終わらせない
その一つが、弊社で長年使っている複写式の予約票です。
介護タクシーでは、病院を受診したその日に次回の受診日が決まることがよくあります。退院時にも、その後の外来受診の日程が決まっていることがあります。
そのときに「次回も必要でしたら、またお電話ください」とお伝えするだけでも間違いではありません。
ただ、それではお客様が帰宅してから改めて電話をしなければなりません。予約することを忘れてしまうかもしれませんし、後日電話をしたときには希望時間が埋まっている可能性もあります。
そこで弊社では車内に複写式の予約票を用意し、受診後に次回の日程が決まった時点で、その場で次回予約を入れられるようにしています。
日付、時間、行き先などを予約票へ記入し、お客様と一緒に確認する。そして複写された同じ内容の予約票を、お客様と事業者の双方が持ちます。
これには、リピート以外にも大きな意味があります。
例えば「10時に迎えに来てもらうつもりだった」「こちらは10時の診察だと聞いていた」という認識違いです。
介護タクシーでは、こうした時間の認識違いが大きな問題になります。
だから、お客様と事業者が同じ予約票を持っておく。予約忘れを防ぐだけでなく、聞き間違いや認識違いも減らすことができます。
この予約票は、次の仕事を確保するためだけの営業ツールではありません。
お客様の手間を減らし、事業者側のミスも減らし、その結果として自然に次回利用につながる仕組みです。
私たちはドライバーに「次回予約を取ってきてください」と営業力を求めているわけではありません。
受診が終わる。次回の日程が決まる。車内に予約票がある。その場で予約する。お客様と事業者が同じ内容を持つ。
人の営業力に頼るのではなく、自然にそうなる流れをサービスの中につくっておく。
これが、私たちの考える**「仕組みによるリピート」**です。
「あの人がいい」より「この会社なら大丈夫」
同じ考え方は、ドライバーについても当てはまります。
接客が上手で、お客様から非常に好かれるドライバーがいることは素晴らしいことです。
しかし会社経営として考えたとき、リピートがその人だけに依存する状態にはリスクがあります。
「あのドライバーでなければ嫌だ」という状態になれば、その人が休んだときに困ります。退職した場合には、お客様まで一緒に離れてしまう可能性があります。
私たちが目指しているのは、
「フレンドシップタクシーなら誰が来ても大丈夫」
と思っていただける状態です。
そのためには、お客様の情報、必要な介助、注意事項、予約内容などをきちんと残し、担当者が変わっても同じように対応できるようにしておかなければなりません。
接客についても同じです。個人の話術に任せるのではなく、必要以上にプライベートへ踏み込まない、安易な励ましをしない、お客様が望む距離感に合わせるといった基本的な考え方を共有する。
介護タクシーのように繰り返し利用されるサービスでは、毎回新しい感動を提供する必要はないと私は考えています。
いつもの時間に来る。いつもの方法で介助してくれる。以前伝えたことが共有されている。予約が間違っていない。必要以上に生活へ踏み込んでこない。
お客様からすれば「今回もいつも通りだった」だけかもしれません。
しかし、その「いつも通り」を何年も続けられること自体が、大きな価値になります。
20年間、毎回感動させる必要はない
こうした考え方でサービスをつくってきた結果、弊社のリピート率は約90%になっています。
そして私自身、90%という数字以上に意味があると思っているのが、お客様との利用期間です。
5年、10年、15年、そして20年以上と利用を続けてくださるお客様がいます。
考えてみれば、一人のお客様を20年間、毎回感動させ続けることなど現実的ではありません。
それよりも、小さなマイナスを20年間つくらないことの方が大切なのではないでしょうか。
予約を間違えない。約束した時間を守る。必要な情報を共有する。担当者が変わってもサービスを大きく変えない。お客様に余計な気を使わせない。次回の受診日が決まれば、その場で予約できるようにして手間を減らす。
どれも派手なサービスではありません。
しかし、こうしたことを5年、10年、20年と積み重ねることで、「次もここでいい」という安心感が生まれていくのだと思います。
開業当初の私は、お客様とうまく話せないことを悩んでいました。
しかし今振り返れば、あのとき先輩から言われた、
「お客さんが減っていないなら、無理に話さなくてもいいんじゃない。あまり話さなくても、誠実さが伝わっているから来てくれているんだよ」
という言葉の中に、今の私たちのサービス設計につながる考え方があったように思います。
介護タクシー経営では、新規のお客様を増やすことに目が向きがちです。病院やケアマネジャーへの営業、ホームページ、SNS、広告など、新規集客のためにできることはたくさんありますし、それらも必要です。
ただ、新しいお客様を獲得する一方で既存のお客様が離れ続けていたら、いつまでたっても経営は安定しません。
だからリピート率を上げようと思ったとき、「何を追加すればもっと喜んでもらえるだろう」と考える前に、一度逆から考えてみてください。
自分がお客様だったら、何が少し嫌だろう。何が面倒だろう。何が不安だろう。
そして、そのマイナスを見つけたら、「気をつける」だけで終わらせず、できるだけ仕組みに変えていく。
弊社の約90%というリピート率は、特別な営業トークや、話し上手なドライバーを育てることで生まれたものではありません。
誠実に仕事をすること。そして、お客様が離れる理由を一つずつ減らし、安心して利用を続けられる仕組みを20年以上積み重ねてきた結果だと考えています。
リピートは「またお願いします」とお願いして取るものではない。
お客様が特別に意識しなくても、自然と「次もここでいい」と思える状態をつくる。そして、それを個人の能力ではなく、会社のサービスとして再現できるようにする。
大きなプラスを狙うより、小さなマイナスをつくらない。誠実さを基本にして、次回利用につながる流れを仕組みにする。
それが、私たちが20年以上の介護タクシー経営を通じて実践してきた「仕組みによるリピート」です。

