看護師・救急救命士・介護福祉士の違いと、実際の酸素搬送事例から考える現場判断
介護タクシーの仕事をしていると、医療と介護の境界に立つ場面があります。
「酸素を使っています」
「痰の吸引が必要です」
「薬を飲ませてもらえますか?」
「SpO2が下がっています」
「この医療機器を操作してもらえますか?」
こうした場面で、
介護タクシー事業者はどこまで対応できるのでしょうか。
さらに、
「介護福祉士ならできるのか」
「救急救命士なら医療行為ができるのか」
「看護師が乗っていれば何でもできるのか」
という疑問もあります。
結論からいえば、
資格の名前だけでは判断できません。
誰が行うのか。
何を行うのか。
誰の判断・指示で行うのか。
利用者様はどのような状態なのか。
どのような医師の指示があるのか。
どの制度・業務として行うのか。
こうした条件によって判断は変わります。
今回は、介護タクシー事業者が知っておきたい「資格」と「医療行為」の基本から、実際に私たちが経験した在宅酸素療法中の利用者様の搬送事例までを取り上げます。
この記事の目的は、
「これはできる」「これはできない」と単純に○×を付けることではありません。
現場で判断に迷ったときに、
何を確認し、何を記録し、どう次の安全につなげるのか。
その考え方を共有することです。
まず知っておきたい「資格」と「できること」
介護タクシー・民間救急に関係する代表的な資格として、
- 看護師
- 救急救命士
- 介護福祉士
があります。
ここで注意したいのは、
看護師 > 救急救命士 > 介護福祉士
という単純な上下関係ではないことです。
それぞれ専門領域が異なります。
看護師
→ 療養上の世話・診療の補助
救急救命士
→ 重度傷病者への救急救命処置
介護福祉士
→ 介護・生活支援
という違いがあります。
看護師・救急救命士・介護福祉士の比較
| 行為 | 看護師 | 救急救命士 | 介護福祉士・介護職 |
|---|---|---|---|
| 体温測定 | ○ | ○ | ○ |
| 自動血圧計による測定 | ○ | ○ | ○ |
| SpO2測定・確認 | ○ | ○ | ○※ |
| 呼吸・意識・顔色等の観察 | ○ | ○ | ○ |
| 移乗・更衣・排泄等の介助 | ○ | ○※ | ◎ |
| 一定条件下の服薬介助 | ○ | △ | ○※ |
| 一定条件下の点眼・湿布等 | ○ | △ | ○※ |
| インスリン自己注射の見守り等 | ○ | △ | ○※ |
| 本人に代わってインスリン注射 | ○※ | 原則× | × |
| 酸素投与・管理 | ○※ | ○※ | △ |
| 状態を見て酸素療法を独自変更 | ×※ | ×※ | × |
| 喀痰吸引 | ○※ | ○※ | ○※※ |
| 経管栄養 | ○※ | 通常の救急救命処置として想定されない | ○※※ |
| 静脈路確保 | ○※ | ○※※ | × |
| 輸液・点滴 | ○※ | ○※※ | × |
| 一定の薬剤投与 | ○※ | ○※※ | × |
| 医学的診断 | × | × | × |
| 医薬品の処方 | × | × | × |
| 資格だけを根拠に独自判断で医療行為 | × | × | × |
表の見方
◎=その資格の主要な専門領域
○=資格・業務範囲として実施できる場合がある
△=一定条件下で可能な場合があるが、資格だけでは判断できない
×=その資格だけを根拠として行うものではない
※医師の指示、利用者様の状態、実施場所、業務形態等によって条件が異なります。
※※介護職による喀痰吸引・経管栄養には、研修、認定・登録、医療職との連携等、制度上の要件があります。
看護師なら何でもできるわけではない
看護師は、保健師助産師看護師法に基づき、
「療養上の世話」と「診療の補助」
を業とする医療職です。
介護タクシーで医療依存度の高い利用者様を搬送する場合には、
- 状態観察
- 酸素管理
- 吸引
- 点滴管理
- その他必要な診療の補助
などを行える場合があります。
しかし、
看護師であっても独自判断で何でもできるわけではありません。
診療の補助として行う行為には、医師の指示が関係します。
また、医学的診断や医薬品の処方は看護師の業務ではありません。
「看護師同行だから大丈夫」ではなく、
搬送中に何をする可能性があり、そのためにどのような指示が必要なのか
まで確認することが重要です。
救急救命士は「資格があれば何でもできる」わけではない
特に誤解されやすいのが救急救命士です。
救急救命士は、生命の危険がある、または症状が著しく悪化するおそれがある重度傷病者に対して、救急救命処置を行う専門職です。
救急救命処置には、
- 酸素投与
- 吸引
- AEDによる除細動
- 気道確保
- 血糖測定
- 静脈路確保
- 輸液
- 一定の薬剤投与
などがあります。
ただし、すべてを自由に行えるわけではありません。
一部の処置には医師の具体的な指示が必要です。
また、
救急救命士資格を持っている人を介護タクシーに乗せれば、車内で救急救命処置を自由にできる
という意味でもありません。
対象となる傷病者、搬送、設備、医師との連携など、救急救命士法上の条件を確認する必要があります。
つまり、
資格 × 対象者 × 場所 × 設備 × 医師の指示 × 業務
まで考える必要があります。
介護福祉士は医療職ではない
介護福祉士は、
介護を必要とする人の日常生活を支援する専門職
です。
介護タクシーとの親和性は非常に高く、
- 移乗
- 移動
- 排泄
- 更衣
- 食事
- 身体介護
- 生活支援
などが専門領域です。
一方で、
介護福祉士は医師や看護師と同じ医療職ではありません。
しかし、
「医療に関係することは一切できない」
という意味でもありません。
ここが介護現場を理解するうえで重要です。
「原則として医行為ではない」と整理されている行為
厚生労働省は、一定の条件を満たす場合に、
- 体温測定
- 自動血圧計による血圧測定
- パルスオキシメータの装着・確認
- 軽微な傷の処置
- 湿布
- 軟膏塗布
- 点眼
- 服薬介助
などについて、原則として医行為ではないと考えられる行為を整理しています。
さらに、インスリン自己注射についても、
- 注射時間を知らせる
- 本人が行うところを見守る
- 未使用の器具を手渡す
- 使用後の器具を片付ける
など、一定の支援が可能な場合があります。
ただし、
本人に代わって介護職がインスリンを注射することとは別問題です。
ここでも、
「支援」と「医療行為そのものを代行すること」
を分ける必要があります。
喀痰吸引・経管栄養は特別な制度
介護福祉士や介護職員でも、一定の要件を満たせば、
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
などを行える制度があります。
しかし、
「介護福祉士だから吸引できる」ではありません。
必要な研修、対象行為、医師・看護職との連携、安全管理、事業所の登録など、制度上の要件があります。
資格を持っている個人と、
その行為を事業として提供できる体制
は別に考える必要があります。
「測ること」と「判断すること」は違う
介護タクシー事業者にとって非常に重要なのが、この境界です。
例えばパルスオキシメータを装着して、
SpO2 88%
と確認する。
これは「測定」です。
しかし、
「88%だから酸素を2Lから4Lに増やそう」
となると意味が変わります。
測定された数値をもとに治療内容を変更するという、医学的な判断が関係してくるからです。
つまり、
数値を確認できることと、その数値をもとに治療方針を決められることは同じではありません。
そこで生まれる「グレーゾーン」
介護タクシーの現場では、法律にすべての状況が、
「これは○」
「これは×」
と書かれているわけではありません。
同じ行為でも、
- 誰が行ったのか
- 何の資格を持っているのか
- 誰が判断したのか
- 医師の指示があるのか
- 本人が自己管理しているのか
- 利用者様の状態
- 緊急性
- 実施場所
- 業務として行っているのか
などによって意味が変わります。
こうした判断が難しい領域を、現場では一般的に「グレーゾーン」と呼ぶことがあります。
ただし、
グレーゾーン=やってよい
ではありません。
逆に、
グレー=全部やってはいけない
という意味でもありません。
重要なのは、何が問題なのかを分解することです。
実際に経験したグレーゾーン事例
ここからは、実際の搬送で経験したケースを紹介します。
病院から自宅へ帰る利用者様でした。
利用者様は在宅酸素療法を行っており、携帯用酸素ボンベを使用していました。
酸素流量は、
2L/分。
病院から出発した時点では、
呼吸同調方式
で酸素を使用していました。
ところが搬送時、酸素機器のアラームが鳴りました。
SpO2を確認すると、
80%台まで低下するときもあり、数値が安定しませんでした。
まず「普段どうしているのか」を確認した
その場で酸素流量を増やすという判断はしていません。
まず、ご家族に確認しました。
「普段、ご自宅では酸素をどのように使用していますか?」
確認すると、
自宅では連続流2L/分
で使用しているとのことでした。
つまり、
病院からの帰宅時
呼吸同調式・2L/分
普段の自宅
連続流・2L/分
でした。
そこで、
酸素流量そのものは2L/分から変更せず、呼吸同調式から普段自宅で使用している連続流2L/分へ切り替えました。
なぜ、このケースは単純な○×ではないのか
一つの見方をすれば、
2L → 2L
です。
酸素流量そのものを増量したわけではありません。
さらに、その場で新しい設定を考えたわけではなく、
普段自宅で使用している連続流2Lという情報を家族から確認しています。
しかし、だから問題ないと即断することもできません。
呼吸同調方式と連続流では、酸素の供給方法が異なります。
つまり、
数字としての流量を変更していなくても、酸素の供給方式を変更している
からです。
さらに「判断」が入っている
今回の流れを分解すると、
機器のアラームが鳴った
↓
SpO2を確認した
↓
80%台まで低下するときもあり、数値が安定していなかった
↓
家族へ普段の使用方法を確認した
↓
自宅では連続流2Lと確認した
↓
連続流2Lへ切り替えた
となります。
単に機械のスイッチを操作しただけではありません。
利用者様の状態と、その場で得られた情報をもとに対応を選択した
という判断過程があります。
ここがグレーゾーンを考えるうえで重要な部分です。
その場ですぐに看護師へ確認できる状況ではなかった
今回の搬送は病院からの帰宅でした。
すでに18時を過ぎ、病院を出た後でした。
その場ですぐ近くの看護師へ、
「連続流へ切り替えてよいでしょうか」
と確認できる状況ではありませんでした。
一方で、
- 酸素機器のアラームが鳴っている
- SpO2が80%台まで低下するときもあり、数値が安定しない
- 在宅酸素療法中
- 普段は連続流2Lと家族から確認できた
という状況でした。
つまり、
何もしないという選択にもリスクがある状況
でした。
これが実際の搬送現場で起こる判断の難しさです。
「看護師がいないからやってよい」ではない
ただし、ここは明確に分けて考える必要があります。
近くに看護師がいなかったこと自体が、介護タクシー乗務員に医療的判断を行う権限を与えるわけではありません。
したがって、
「看護師がいないときは乗務員が判断する」
という運用にはできません。
今回の経験から考えるべきなのは、
看護師がその場にいなくても現場で困らないよう、出発前に必要な情報や指示を確認しておく
という仕組みです。
今回は「搬送時急変対応確認書」を用意できていなかった
今回のように医療依存度が高く、搬送中の状態変化が考えられる利用者様については、本来であれば事前に**「搬送時急変対応確認書」**を用意し、
「搬送中に状態が変化した場合、どのように対応するのか」
をあらかじめ本人・ご家族等と確認しておくことが望ましいと考えています。
しかし今回は、
搬送時急変対応確認書を事前に用意できていませんでした。
そのため、ご家族に事情を説明し、
同意をいただいたうえで、確認の会話を録音しました。
なぜ録音したのか
今回、録音した目的は大きく二つあります。
一つ目は、
その時に何が起き、どのような情報を確認し、なぜその判断をしたのかを、後から説明できるようにするためです。
そして二つ目は、
本来であれば搬送時急変対応確認書を使って事前に確認しておく内容を、その場でご家族と確認するためです。
つまり、
「家族から許可をもらったから操作してよい」
という根拠を作るためではありません。
また、
「録音しておけば責任を免れる」
という目的でもありません。
本来、搬送前に確認しておくべき内容について、書面を用意できていなかったため、
可能な範囲で、その場でご家族と急変時対応を確認し、その確認内容と判断過程を記録した
という位置づけです。
何を確認したのか
今回のようなケースでは、本来「搬送時急変対応確認書」で、
- 普段の状態
- 普段の酸素使用方法
- 酸素流量
- 連続流か呼吸同調式か
- 普段のSpO2
- 状態が変化した場合、普段どのように対応しているか
- 医師・看護師からどのような説明や指示を受けているか
- 状態悪化時に誰へ連絡するのか
- 119番通報を含め、急変時にどのような対応を想定しているのか
などを確認しておくことが重要です。
今回は書面がなかったため、
このような急変時対応に関する内容を、可能な範囲でご家族との会話の中で確認しました。
「急変してから確認する」のではなく、本来は事前確認する
今回の対応で最も重要な振り返りは、
急変時対応は、本来その状況になってから確認するものではない
ということです。
医療依存度が高い利用者様を搬送する場合には、出発前に、
「もし搬送中に状態が変わったらどうするのか」
を確認しておく。
医療機関へ連絡するのか。
主治医へ連絡するのか。
119番通報するのか。
本人・家族はどのような説明を受けているのか。
医療機器についてどこまで本人・家族が操作するのか。
これらをあらかじめ整理しておけば、
状態が変化した瞬間に、乗務員が一から判断しなくても済みます。
今回録音を行ったことを通常の運用にするのではなく、
「次回からは事前に搬送時急変対応確認書を整える」
という改善につなげることが重要です。
グレーゾーンでは「説明可能性」が重要になる
現場では短時間のうちに判断を求められることがあります。
後日、
「なぜ連続流へ切り替えたのですか?」
と聞かれたとき、
「確か、ご家族から聞きました」
だけでは十分な説明ができません。
今回であれば、
- 酸素機器のアラームが発生した
- SpO2が80%台まで低下するときもあり、数値が安定しなかった
- 酸素流量は2Lだった
- 家族に普段の使用方法を確認した
- 自宅では連続流2Lであることを確認した
- 流量そのものは増量しなかった
- 呼吸同調式から連続流へ変更した
- その場で急変時対応について家族と確認した
という経過があります。
「何をしたか」だけではなく、「何を確認し、なぜそうしたのか」まで後から説明できる状態にする。
これをISNでは重要だと考えています。
録音は「搬送時急変対応確認書そのもの」ではない
ここも重要です。
録音すれば、
搬送時急変対応確認書が不要になるわけではありません。
また、録音が、
- 医師の指示書
- 診療情報
- DNARに関する確認
- その他必要な医療文書
の代わりになるものでもありません。
今回は、
事前に書面を用意できなかった状況で、何も確認せず記録も残さないのではなく、ご家族の同意を得て、急変時対応と必要な情報を確認し、その内容を記録した
という位置づけです。
録音があれば正しいわけでもない
録音が残っているから、
その行為が適法になるわけではありません。
家族が同意したから、
本来実施できない医療行為を行えるようになるわけでもありません。
録音は、
「適法だったことを証明するもの」ではなく、「その時点で得られた情報と判断過程を後から説明・検証できるようにする記録」
です。
この違いは非常に重要です。
「情報」「意思」「実施可能性」を分ける
グレーゾーンでは、3つを分けて考えると分かりやすくなります。
① 情報
家族から、
「普段は連続流2Lです」
と聞いた。
これは情報です。
② 意思・急変時対応の確認
本人・家族が、
状態が変化した場合にどのような対応を考えているのか。
医療機関への連絡や119番通報などについて、どのような説明を受け、どう認識しているのか。
これを確認する。
③ 実施可能性
その操作を、
そのスタッフが、その資格・立場・状況で実施できるのか。
これは法令、医師の指示、業務内容等の問題です。
①と②を確認できたから、自動的に③も可能になるわけではありません。
今回の対応を「前例」にしない
今回、
連続流2Lへ切り替えました。
しかし、
「前回こうしたから、次回もSpO2が下がったら連続流へ切り替える」
というルールにはできません。
利用者様によって、
- 病状
- 処方
- 医師の指示
- 使用機器
- 普段の状態
- 急変時対応
が違うからです。
重要なのは、
今回、なぜ現場判断が必要になったのか
を振り返ることです。
「酸素2L」だけでは情報が足りない
今回の事例から分かったことがあります。
搬送指示に、
「酸素2L」
とだけ書いてあっても、安全な搬送に必要な情報としては十分でない場合があります。
今後、酸素療法中の利用者様については、少なくとも次の内容を確認する必要があります。
① 酸素流量
何L/分なのか。
② 酸素供給方式
連続流なのか、呼吸同調式なのか。
③ 自宅と外出時の違い
自宅と携帯時で設定が違うのか。
④ 普段のSpO2
通常はどの程度なのか。
⑤ アラーム時の対応
どのように対応するよう説明されているのか。
⑥ 同調できない場合
連続流へ変更する指示があるのか。
⑦ 誰が操作するのか
本人なのか。
家族なのか。
医療職なのか。
⑧ 急変時対応
誰に連絡するのか。
医療機関へ相談するのか。
どのような場合に119番通報するのか。
こうした情報まで確認できれば、
現場の乗務員がゼロから判断しなければならない場面を減らすことができます。
そして、今回残った疑問
今回の事例を振り返ると、一つ重要な疑問が残ります。
普段、自宅では連続流2Lなのに、なぜ病院を出発するときには呼吸同調式2Lだったのか。
医師から、
「外出時は呼吸同調式」
という指示があったのか。
携帯用酸素ボンベでは通常その設定だったのか。
機器の使用可能時間を延ばすためだったのか。
それとも別の理由があったのか。
ここまで確認できていれば、さらに判断材料が増えていました。
つまり今回の改善点は、
「現在どの設定になっているのか」だけではなく、「なぜその設定になっているのか」まで確認すること
です。
搬送時急変対応確認書も改善する
今回の経験は、搬送時急変対応確認書の内容を見直す材料にもなります。
医療依存度の高い利用者様について、
単に、
「酸素あり・2L」
と記録するだけではなく、
- 酸素流量
- 連続流/呼吸同調式
- 自宅での通常設定
- 外出時の設定
- 普段のSpO2
- アラーム発生時の対応
- 同調できない場合の対応
- 医師・看護師から受けている指示
- 本人・家族が行っている通常の操作
- 状態悪化時の連絡先
- 急変時にどのような対応を確認しているか
- 119番通報等の対応
まで整理しておく。
そうすることで、
「現場で乗務員が判断する」のではなく、「事前に確認された情報と対応方針に基づいて搬送する」
という運用に近づけることができます。
グレーゾーンに遭遇したときの7つの視点
ISNでは、このような事例に遭遇したとき、次の視点で考えることが重要だと考えます。
1.事実
今、何が起きているのか。
2.普段
その利用者様は通常どうしているのか。
3.指示
医師・看護師からどのような指示を受けているのか。
4.資格・権限
その行為を自分が行えるのか。
5.代替手段
本人、家族、医療職、119番など、他の選択肢はないのか。
6.記録
後から判断過程を説明できるか。
7.事後検証
次回、同じ現場判断をしなくて済むように何を変えるのか。
「緊急だったから」は万能ではない
もう一つ注意したいのが、
「緊急だったから仕方がない」
という考え方です。
生命に危険が迫っているときには、
- 119番通報
- AED
- 胸骨圧迫
など、一般市民でも行う救命行為があります。
しかし、
「緊急だった」
という言葉だけで、通常認められていない医療行為がすべて正当化されるわけではありません。
だからこそ、
緊急性が高いほど、自分だけで抱え込まない。
必要であれば119番通報し、医療につなぐ。
これは介護タクシー事業者として重要な考え方です。
グレーゾーンを会社の「慣習」にしない
最も避けたいのは、
「前にもやった」
「うちではいつもこうしている」
「ベテランが大丈夫と言っている」
という状態です。
一度問題が起きなかったことと、
法的・医学的に適切であることは同じではありません。
グレーゾーンに遭遇したら、
記録する。
調べる。
必要なら行政・医療職・専門家へ確認する。
次回の対応方法を決める。
ここまで行うことが重要です。
「個人の経験」を「組織の知識」に変える
介護タクシーには、一人事業者も多くいます。
そのため、
「経験豊富な人だから対応できる」
という個人の経験値に頼りやすい業界でもあります。
しかし、それでは知識が残りません。
一人の事業者が経験したことを、
事例として記録する。
その判断を検証する。
法令や制度上の根拠を確認する。
改善点を整理する。
そして他の事業者と共有する。
そうすれば、
一人の経験が、次の事業者を守る知識になります。
ISNが考えるグレーゾーンとの向き合い方
法律を学ぶ目的は、
「できない理由」を探すことではありません。
しかし、
「グレーならやってしまえばいい」
ということでもありません。
ISNが目指したいのは、
グレーゾーンを一人で抱え込まない仕組み
です。
現場で起きたことを共有する。
法令・通知を確認する。
必要なら医師、看護師、行政、法律専門職などへ確認する。
その結果を事業者間で共有する。
そして、
次回は同じことをグレーゾーンにしない。
この積み重ねが、安全な移動支援につながると考えています。
まとめ
介護タクシーは、
運送・介護・医療の境界にある仕事
です。
だからこそ、
「資格を持っているからできる」
「家族に頼まれたからできる」
「前回やったからできる」
という判断は避けなければなりません。
大切なのは、
誰が
どの資格・立場で
誰の指示のもと
どの行為を
どのような状態の利用者様に
どこまで行うのか
を整理することです。
そして、医療依存度が高く、搬送中の状態変化が想定される利用者様については、
急変してから対応を考えるのではなく、搬送前に「搬送時急変対応確認書」等を使い、対応方針を確認しておく。
今回、その書類を用意できていなかったため、ご家族の同意をいただいたうえで会話を録音しました。
録音した目的は、
本来事前に確認しておくべき急変時対応を、その場で可能な範囲で確認すること。
そして、
「その時、何が起き、何を確認し、なぜその判断に至ったのか」を後から説明・検証できるようにすること。
です。
録音を正当化や免責のために使うのではありません。
今回の経験を、
次回は搬送前に確認する仕組み
へ変えることが重要です。
ISNでは、
「グレーゾーンを次回はグレーにしない」
という考え方で、現場で起きた事例と法律・制度を共有していきます。
一人の経験を、一人だけの経験で終わらせない。
現場の経験を記録し、検証し、仕組みに変える。
それを業界全体の安全な移動支援につなげていくことが、ISNの役割の一つだと考えています。
主な関連法令・資料
本テーマに関連する主な法令・行政資料として、
- 医師法
- 保健師助産師看護師法
- 救急救命士法
- 社会福祉士及び介護福祉士法
- 厚生労働省「医師法第17条等の解釈について」
- 厚生労働省「喀痰吸引等制度について」
- 厚生労働省「救急救命処置の範囲等について」
などがあります。
実際のサービス設計・個別対応については、最新の法令・通知を確認するとともに、必要に応じて管轄行政機関、医療機関、専門職等へ確認してください。
免責事項
本記事は、介護タクシー事業者が資格・医療行為・グレーゾーンについて考えるための一般的な情報と、実際の搬送事例における検討過程を共有するものです。
特定の医療行為について一律に実施可能・不可能と判断したり、本事例で行った対応について法的・医学的に適切であったと断定したりするものではありません。
本人・家族の同意や録音についても、医療行為を実施する法的権限を与えるものでも、事業者の責任を当然に免除するものでもありません。
また、録音は搬送時急変対応確認書、医師の指示書、DNAR等の医療・確認文書そのものを代替するものではありません。
録音等には個人情報や健康・医療に関する情報が含まれるため、利用目的、保存方法、アクセス権限、保存期間、廃棄等について適切な管理が必要です。
利用者様の病状が急変した場合や生命への危険が疑われる場合には、現場だけで判断を抱え込まず、医療機関への連絡や119番通報等、必要な対応を優先してください。

