大切なのは「介護タクシーを使うこと」ではなく、「あなたに合った移動手段を選ぶこと」
「介護タクシーは高い。」
お問い合わせの中で、このようなお声をいただくことがあります。
一方で、実際にサービスをご利用いただいた方からは、
「一人では通院できなかった。」
「安心して病院へ行けた。」
「家族だけでは難しかった。」
というお声も多くいただきます。
では、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
それは、介護タクシーが必要な方と、一般タクシーや他の移動サービスで十分な方がいらっしゃるからです。
介護タクシーは「高齢だから利用するサービス」ではありません。
利用者の身体状況や生活環境、移動に対する不安に合わせて、本当に必要な方に提供されるサービスです。
この記事では、介護タクシーが必要となる理由や、利用しなくてもよいケース、そして利用者とサービスを適切にマッチングするための考え方について、20年以上介護タクシーに携わってきた経験を交えながらお伝えします。
介護タクシーは「歩けない人」のためだけではありません
「歩けるから介護タクシーは必要ない。」
そう思われる方も少なくありません。
しかし、介護タクシーが必要になる理由は、身体機能だけではありません。
例えば、
- 一人では歩行に不安がある
- 転倒の危険性が高い
- 車いすを利用している
- リクライニング車いすやストレッチャーが必要
- 認知症があり、一人で外出すると道に迷ってしまう
- 視覚障害があり、安全な移動に支援が必要
- 聴覚障害があり、周囲との意思疎通に配慮が必要
- 自閉スペクトラム症などにより、慣れない環境や公共交通機関の利用が難しい
- 精神的な不安が強く、一人での外出が困難
このように、「安全に目的地まで移動すること」が難しい場合には、介護タクシーが大きな役割を果たします。
「歩ける」ことと「安全に移動できる」ことは違います
介護タクシーの現場では、
「歩けるから大丈夫。」
という考えが事故につながってしまうことがあります。
転倒しやすい場面は意外にも身近です。
例えば、
- 車の乗り降り
- 病院の駐車場
- 病院入口の段差
- 階段
- トイレへの移動
- 雨の日の濡れた路面
- 自宅玄関の上がり框
こうした何気ない場所で、高齢者の転倒事故は多く発生しています。
現場で実際に見てきた転倒事故
私は20年以上、介護タクシーの現場で多くの利用者様と接してきました。
その中で特に多く見てきたのが、階段での**「膝折れ」**です。
階段の途中で突然膝の力が抜け、その場に座り込んでしまい、自力では立ち上がれなくなることがあります。
また、バス停でバスを待っていた高齢者の方が、バスの到着に合わせて立ち上がった瞬間、立ちくらみを起こして転倒してしまう場面にも、年に1〜2回ほど遭遇します。
そのほかにも、歩行中に転倒し、自力で起き上がれず困っている方を救助したことも一度や二度ではありません。
介護タクシードライバーは、空車で走行中に傷病者を見かけた場合、安全を確保したうえで救護活動を行い、必要に応じて119番通報を行うこともあります。
こうした経験から実感しているのは、
「歩けること」と「安全に移動できること」は同じではない
ということです。
転倒を防ぐためにできること
転倒事故は、日頃のちょっとした工夫で減らせる場合があります。
靴選びはとても重要です
おすすめなのは、
- かかとがしっかり固定される靴
- 滑りにくい靴底
- 足に合ったサイズ
- 面ファスナーなどで調整できる靴
反対に、
- サンダル
- スリッパ
- かかとのない靴
- 大きすぎる靴
は、転倒リスクを高めることがあります。
服装や荷物にも注意しましょう
裾の長いズボンやスカートは足に引っ掛かることがあります。
また、荷物を片手に持つとバランスを崩しやすくなります。
リュックやショルダーバッグなど、両手が空くバッグがおすすめです。
外出時にあると安心な持ち物
- 健康保険証・マイナ保険証
- 診察券
- お薬手帳
- 常備薬
- 飲み物
- 緊急連絡先を書いたカード
- 杖や歩行器(必要な方)
認知症や持病のある方は、緊急連絡先や服薬情報を記載したカードを携帯しておくと安心です。
福祉用具は「できなくなった人」のためだけではありません
杖や歩行器は、「歩けない人」が使うものではありません。
転倒を防ぎ、安全に生活を続けるための道具です。
介護タクシーも同じです。
利用することが目的ではなく、安全に移動することが目的です。
車両の違いが「期待とのギャップ」を生むことがあります
介護タクシーの最大の特徴は、車いすに乗ったまま乗車できることです。
一般のタクシーでは難しい、車いすやリクライニング車いす、ストレッチャーのまま、安全に乗車できるよう設計されています。
これは介護タクシーならではの大きなメリットです。
一方で、この車両構造が利用者とのミスマッチを生むことがあります。
介護タクシーで使用される車両の多くは、商用バンをベースにした福祉車両です。
車いすを安全に固定し、介助しやすい広い車内を確保するため、一般タクシーで多く使用されているセダンや乗用ミニバンとは設計思想が異なります。
そのため、乗用車に比べると、
- 段差の衝撃を感じやすい
- エンジン音や走行音が大きい
- 乗り心地が硬く感じる
場合があります。
その結果、
「料金は一般タクシーより高いのに、乗り心地はあまり良くない。」
というご意見をいただくことがあります。
しかし、これは車両の性能が低いからではありません。
「乗り心地」を最優先に設計された車ではなく、「車いすのまま安全に乗車できること」を最優先に設計された車だからです。
私たちは、そのことを事前にお伝えしています
私たちの会社では、歩行に問題がなく、一般タクシーでも安全に利用できると思われる方には、この車両の特徴をご説明しています。
そのうえで、
「それでも介護タクシーを利用したい。」
というご希望があれば、ご利用いただいています。
これは利用をお断りするためではありません。
利用後に、
「思っていたサービスと違った。」
という残念な思いをしていただきたくないからです。
また、介護タクシーの車両や予約枠には限りがあります。
本当に車いすやストレッチャーでの移動が必要な方が予約できなくなってしまうことは、できるだけ避けたいと考えています。
利用者にとって最適な移動手段をご提案することも、私たち介護タクシー事業者の大切な役割だと考えています。
「介護タクシーなのに高い」と感じる理由
「福祉なのに、こんなに料金がかかるんですか?」
このようなご質問は決して珍しくありません。
その理由の一つは、「介護タクシー」という言葉が、さまざまな制度の総称として使われていることです。
利用者から見ると、
- 民間の介護タクシー
- 介護保険タクシー
- 福祉有償運送
どれも同じ「介護タクシー」に見えます。
しかし、制度も料金も提供できるサービスも異なります。
介護保険タクシーや福祉有償運送の方が安く利用できる場合もあります。
利用者がその違いをご存じないのは当然です。
だからこそ、事業者は制度や料金だけでなく、「なぜこの料金になるのか」「どのようなサービスが含まれているのか」を丁寧に説明する責任があります。
大切なのはサービスとのマッチング
介護タクシーは、「利用してもらうこと」が目的ではありません。
一般タクシーが適している方には一般タクシーを。
介護保険タクシーが利用できる方には、その制度を。
介護タクシーが必要な方には、安全な介助と移動を。
利用者一人ひとりの状態や目的に合わせて、最適な移動手段をご提案することが大切です。
利用者にとっても、事業者にとっても、「期待していたサービス」と「実際のサービス」が一致していることが、満足度の高い移動支援につながります。
まとめ
介護タクシーは、すべての高齢者が利用するサービスではありません。
一方で、身体機能の低下だけでなく、認知症や障害、不安など、さまざまな理由で「安全な移動」が難しい方にとっては、安心して外出するための大切な移動手段です。
大切なのは、「介護タクシーだから」「料金が安いから」と選ぶことではなく、自分の身体状況や必要な支援に合った移動手段を選ぶことです。
移動の目的は、目的地へ行くことではありません。
安全に目的地へ行き、安全に自宅へ帰ってくること。
そのために最適な方法をご提案することが、私たち介護タクシー事業者の役割だと考えています。

