駐車位置・院内対応・事前確認で差がつく
介護タクシーの病院搬送では、安全な運転や移乗介助の技術だけでなく、病院内での立ち振る舞いや、病院職員への配慮も重要です。
病院には、救急車、一般タクシー、病院の送迎車、福祉車両、納品業者など、多くの車両や関係者が出入りしています。
自分たちにとっては短時間の停車や、何気ない言動だったとしても、病院業務の妨げになったり、依頼をつないでくださった医療ソーシャルワーカー、いわゆるMSWの立場を悪くしてしまったりすることがあります。
介護タクシー事業者は、利用者様を運ぶだけの存在ではありません。
利用者様、ご家族、MSW、看護師、受付職員、警備員、救急隊など、多くの方と連携しながら搬送を行う仕事です。
今回は、病院搬送で信頼され、院内の職員からも「またお願いしたい」と思っていただける事業者になるためのポイントを5つご紹介します。
1.救急車の動線を最優先にして駐車する
病院搬送で最初に気を付けたいのが、車両の駐車位置です。
病院の正面玄関や救急外来付近は、患者様の乗降には便利ですが、救急車や病院送迎車、一般車両などが頻繁に出入りします。
特に注意が必要なのは、次のような場所です。
- 救急車の進入経路
- 救急外来の出入口
- 救急車専用の停車位置
- 正面玄関の車寄せ
- 病院送迎車の専用スペース
- 身体障害者用駐車スペース
- スロープや歩行者通路の前
- 他の福祉車両が乗降できなくなる位置
MSWに迷惑をかけてしまう駐車
退院や転院の送り出しでは、依頼を担当したMSWが患者様と一緒に車両まで来てくださることがあります。
その際、介護タクシーが救急車の停車できない位置に駐車していたため、MSWが警備員から注意を受けている場面を見かけることがあります。
また、救急車の動線を塞いでしまい、救急隊から直接クレームを受けている介護タクシー事業者を見たこともあります。
病院搬送の依頼は、MSWから紹介されているケースが少なくありません。
事業者の不適切な駐車によってMSWが注意を受ければ、
「この事業者を紹介したのは誰か」
という話にもなりかねません。
わずかな時間の駐車であっても、依頼をつないでくださったMSWの信頼まで失わせてしまう可能性があります。
「すぐ戻るから大丈夫」は通用しない
院内へお迎えに行く場合、患者様の準備状況によっては、戻るまでに時間がかかることがあります。
「すぐに戻るつもりだった」
という事情は、救急車や病院側には関係ありません。
緊急搬送では、一分一秒を争うこともあります。
救急車が到着する可能性のある場所には、短時間であっても駐車しないことが原則です。
駐車位置を決める際の基本
- 救急車の動線を最優先する
- 救急車専用スペースには絶対に停めない
- 他の車両が通過できる幅を確保する
- 車いすやストレッチャーを安全に展開できる場所を選ぶ
- 長時間になる場合は一般駐車場を利用する
- 分からない場合は警備員や受付に確認する
駐車位置への配慮は、介護タクシー事業者の経験、安全意識、社会性が最も分かりやすく表れる部分です。
2.院内では営業行為をせず、病院職員を仲間として尊重する
病院内では、さまざまな患者様が治療や療養をしています。
介護タクシー事業者にとって病院は重要な仕事先ですが、自由に営業活動をしてよい場所ではありません。
患者様への無断営業はしない
院内にいる患者様へむやみに声をかけたり、名刺を渡したりする事業者がいます。
たとえ親切心や営業活動のつもりであっても、病院側から見れば、院内で患者様を勧誘しているように受け取られる可能性があります。
患者様の中には、体調が悪い方、判断力が低下している方、不安を抱えている方もいます。
病院の許可なく患者様へ営業を行うことは、病院からの信頼を失う大きな原因になります。
依頼された患者様への対応に集中し、院内では不要な営業行為を行わないことが大切です。
看護師に横柄な態度を取らない
搬送時に、看護師へ横柄な態度を取ったり、
「荷物を運ぶのは看護師がやって当たり前だ」
というような態度を見せたりする事業者もいます。
しかし、看護師も介護タクシー事業者も、同じ患者様を安全に支える仲間です。
病院側と介護タクシー事業者で、どちらが上、どちらが下という関係ではありません。
患者様を安全に送り出すため、それぞれの立場で協力する関係です。
近頃では、退院支援を専門に担当する看護師が配置されている病院もあります。
MSWだけでなく、看護師が搬送事業者の選定や情報共有に関わるケースも増えています。
看護師への態度が悪ければ、その印象は病院内で共有される可能性があります。
「患者様に対しては丁寧だが、職員に対しては横柄」
という事業者は、長期的に信頼を得ることはできません。
院内での待機場所にも配慮する
車いすやストレッチャーで待機する際は、次の点にも注意しましょう。
- 診察室や処置室の出入口を塞がない
- ナースステーションの前に長時間停止しない
- エレベーター前や廊下の中央で待機しない
- 酸素ボンベや荷物を通路に置かない
- 大きな声で会話をしない
- 携帯電話での通話は必要最小限にする
- 職員や患者様が通る際は速やかに道を空ける
院内では、自分たちの業務を早く終わらせることだけでなく、病院全体の動きを妨げないことが大切です。
3.患者様の氏名や情報を正確に確認する
病院へお迎えに行く際は、患者様の氏名、病棟、診療科などを正確に確認しておく必要があります。
特に注意したいのが、氏名の聞き間違い、漢字違い、同姓同名、似た名前の患者様です。
情報が違えば、受付は案内できない
病院の受付職員は、個人情報保護の観点から、曖昧な情報だけで患者様の居場所を案内することはできません。
介護タクシー事業者が伝えた氏名や情報が病院の登録内容と違えば、患者様本人と一致するまで確認作業が必要になります。
例えば、次のようなケースです。
- 氏名の漢字が違う
- 読み方が違う
- 旧姓で伝えている
- ご家族の名前を患者様の名前として伝えている
- 同姓同名の患者様がいる
- 病棟や診療科が違う
- 入院患者と思っていたが外来患者だった
情報が一致しなければ、受付職員は病棟や関係部署へ何度も確認を取らなければなりません。
その結果、病院職員に余計な仕事と時間を使わせてしまいます。
さらに、患者様の確認に時間がかかれば、搬送開始が遅れ、次の予約にも影響する可能性があります。
受付で簡潔に伝える情報
受付では、必要な情報を整理して伝えます。
「介護タクシーです。〇階〇病棟の〇〇様のお迎えに伺いました」
「本日退院予定の〇〇様を、ストレッチャーでお迎えに来ています」
最低限、次の内容を確認してから病院へ向かいましょう。
- 患者様の氏名
- 氏名の正しい読み方
- 病院名
- 病棟または診療科
- 入院か外来か
- 退院、転院、受診などの搬送目的
- 依頼担当者の氏名や部署
- 車いす、リクライニング車いす、ストレッチャーなどの搬送方法
患者様の情報を正確に確認することは、個人情報保護、安全管理、時間管理のすべてに関わります。
4.搬送条件を事前に確認し、不足のない体制で向かう
病院搬送では、利用者様の身体状況だけでなく、同乗人数、到着先の環境、必要な機材、作業人数まで確認する必要があります。
事前確認が不足すると、病院へ到着してから搬送できないことが判明する場合があります。
付き添いの方が乗れない
患者様だけを乗せる予定で車両を手配したところ、当日になって付き添いのご家族が複数名いることが分かり、全員が乗車できないケースがあります。
介護タクシーは、車いすやストレッチャーを固定すると、一般の座席数が少なくなることがあります。
特にストレッチャー搬送では、車両によって同乗できる人数が大きく異なります。
事前に次の点を確認する必要があります。
- 付き添いの有無
- 付き添い人数
- 大人か子どもか
- 荷物の量
- 車いすやストレッチャー使用時の座席数
付き添いの方が乗れなければ、別の交通手段を急きょ手配することになり、出発が遅れてしまいます。
自宅に階段があるのに作業員が足りない
病院から自宅へ退院する際、到着先に階段があり、患者様が自力で上がれないにもかかわらず、追加作業員が手配されていないことがあります。
現場に到着してから、
「一人では対応できない」
と判明しても、すぐに応援者を確保できるとは限りません。
無理に一人で対応すれば、患者様の転落、転倒、作業員の負傷など、重大な事故につながります。
確認しておきたい項目は次のとおりです。
- 建物の種類
- エレベーターの有無
- 玄関までの段差
- 階段の段数
- 階段の幅
- 踊り場の広さ
- 患者様が立位を取れるか
- ご家族が介助できるか
- 何名での対応が必要か
- 使用する機材
階段介助が必要な場合は、料金だけでなく、安全に対応できる人数を優先して手配する必要があります。
酸素ボンベの残量が足りない
医療用酸素を使用する搬送では、酸素流量、搬送時間、待機時間、予備分を含めて、必要量を計算しなければなりません。
病院から自宅までの走行時間だけを基準にすると、退院準備の待ち時間や渋滞、到着後の移乗時間によって酸素が不足する可能性があります。
確認すべき内容は次のとおりです。
- 酸素流量
- 搬送中に継続使用するか
- 病院内から車両までの移動中も必要か
- 到着後、在宅酸素へ切り替えるまでの時間
- 渋滞や待機を含めた搬送予定時間
- 酸素ボンベの残量
- 予備ボンベの必要性
- 病院またはご家族所有の酸素を使用するのか
酸素量に少しでも不安がある場合は、余裕を持った準備が必要です。
似た名前の病院を間違えない
地域によっては、似た名称の病院や、同じ医療法人が運営する病院、旧名称で呼ばれている病院などがあります。
例えば、
- 本院と分院
- 東病院と西病院
- 病院とクリニック
- 同じ法人名の別施設
- 移転前と移転後の住所
- 地域で呼ばれている通称
などです。
病院名だけで判断せず、必ず住所や電話番号まで確認することが重要です。
病院を間違えれば、患者様のお迎えに遅れるだけでなく、病院、ご家族、次の搬送予約にも大きな影響を与えます。
搬送前に確認したい主な項目
- 患者様の氏名
- 正確な病院名と住所
- 搬送先の名称と住所
- 車いす、リクライニング車いす、ストレッチャーの別
- 移乗方法
- 必要な作業人数
- 付き添い人数
- 荷物の量
- 階段や段差の有無
- 酸素の流量と必要量
- 吸引の必要性
- 点滴、カテーテルなどの有無
- 到着先で介助する人の有無
- 急変時の連絡方法
介護タクシー事業者は、医療行為を行う立場ではありません。
安全に搬送できる条件が整っていない場合は、無理に出発せず、病院職員、ご家族、依頼者と再確認する必要があります。
5.到着から退出まで、最後まで丁寧に対応する
病院搬送では、患者様を車両に乗せた時点で業務が終わるわけではありません。
院内から退出し、安全に車両を出発させるまでが病院での対応です。
例えば、次のような配慮が必要です。
- 借りた車いすは決められた場所へ戻す
- ベッドや椅子を動かした場合は元の位置へ戻す
- 毛布や備品を置き忘れない
- 使用済み手袋やごみを残さない
- ドアやエレベーターを長時間占有しない
- 患者様の薬や書類、荷物を確認する
- 病院職員へ搬送を開始することを伝える
- 協力してくれた職員へお礼を伝える
- 出発時も救急車や歩行者を優先する
病院職員が移乗や荷物の確認に協力してくださった場合は、
「ありがとうございました。お預かりします」
と、一言伝えるだけでも印象は変わります。
介護タクシー事業者は、病院から見れば外部の事業者です。
だからこそ、病院の設備やルールを尊重し、来たときよりも悪い状態にせず退出することが大切です。
院内で好かれる事業者は、病院の仕事を増やさない
病院から信頼される介護タクシー事業者には共通点があります。
それは、病院職員の仕事を増やさないことです。
- 救急車の邪魔にならない場所へ駐車する
- 院内で勝手な営業をしない
- 患者様の情報を正確に把握している
- 必要な人数や機材を準備している
- 職員へ簡潔で丁寧に確認する
- 看護師やMSWを同じ患者様を支える仲間として尊重する
- 使用した場所を整えて退出する
このような事業者は、病院職員にとって安心して依頼できる存在になります。
反対に、駐車位置への配慮がない、院内で営業をする、患者様の名前を間違える、必要な機材や人員を準備していない、職員へ横柄な態度を取るといった行動は、事業者全体の評価を下げます。
たった一人の行動で、その会社だけでなく、介護タクシー業界全体が同じように見られてしまうこともあります。
まとめ
病院搬送で信頼されるためのポイントは、次の5つです。
- 救急車の動線を最優先にして駐車する
- 院内では営業行為をせず、病院職員を仲間として尊重する
- 患者様の氏名や情報を正確に確認する
- 搬送条件を事前に確認し、不足のない体制で向かう
- 到着から退出まで、最後まで丁寧に対応する
一つひとつは、特別に難しいことではありません。
しかし、こうした小さな配慮を毎回確実に行うことが、MSW、看護師、受付職員、病院全体からの信頼につながります。
介護タクシーは、患者様を車で運ぶだけの仕事ではありません。
患者様を中心に、病院、ご家族、施設、搬送事業者が連携し、安全な移動を実現する仕事です。
「この事業者なら安心してお願いできる」
そう思っていただける介護タクシーを目指し、安全だけでなく、周囲への配慮と正確な事前確認を大切にしていきましょう。

