介護タクシーの階段対応はどのようなプロセスで行われているのか

「自宅が2階でエレベーターがないのですが、介護タクシーを利用できますか?」

介護タクシーでは、このような相談を受けることがあります。歩行が難しく車いすを利用している方でも、階段介助に対応している介護タクシー事業者であれば、自宅から車両までの移動を支援できる場合があります。

ただし、階段介助は単純に「車いすを持って階段を上り下りする」というものではありません。階段からの転落は重大な事故につながる可能性があるため、利用者の身体状況、階段の構造、使用する車いすや機材、必要な介助人数などを確認し、安全に対応できる方法を決めてから実施する必要があります。

今回は、介護タクシーの階段対応がどのような考え方とプロセスで行われているのか、実際の現場で重視していることも含めて紹介します。

目次

階段介助は予約を受けた時点から始まっている

階段介助で重要なのは、実際に階段を上り下りする技術だけではありません。安全な階段介助は、予約を受けた段階で必要な情報を集めるところから始まっています。

まず確認するのは利用者の身体状況です。自力で立つことができるのか、座位を保つことができるのか、普段どのような車いすを使用しているのか、移乗にはどの程度の介助が必要なのか、麻痺や拘縮、痛みなどはないかといった情報を確認します。利用者の体格も、介助方法や必要人数を判断する重要な情報になります。

次に確認するのが階段です。同じ「2階から1階まで」という依頼でも、直線の階段なのか、途中に踊り場があるのか、階段の幅や一段あたりの奥行き、傾斜はどうなっているのかによって難易度は大きく変わります。屋外階段であれば、雨などによって足元が滑りやすくなることも考えなければなりません。

電話だけでは判断できない場合には、階段の写真を送っていただいたり、必要に応じて事前に現地を確認したりすることもあります。

つまり、「階段が何段あるのか」だけでは安全な介助方法を決めることはできません。誰を、どのような階段で、どのような方法で移動させるのかを総合的に判断することが必要になります。

「1人でできるか」ではなく「何か起きたときに支えられるか」

必要な情報を確認したら、実際にどのような方法で階段を移動するのかを検討します。

階段対応には、人力による介助、複数名による介助、可搬型の階段昇降機などを使用する方法があります。どの方法が適しているかは、利用者の状態や現場の環境によって異なります。

ここで特に注意したいのが、「1人でできるかどうか」だけで介助人数を決めないことです。

1名で階段介助を行っている最中に介助者が足を滑らせたり、バランスを崩したりした場合、周囲にフォローする人がいなければ、利用者と介助者双方が転落する可能性があります。

そのため階段介助では、通常どおり作業できるかだけではなく、何か起きたときにリカバリーできる体制になっているかという視点が非常に重要です。

利用者の体格が大きい、姿勢保持が難しい、階段が急である、踊り場で方向転換が必要になる、階段が長いといった条件では、複数名での対応を検討する必要があります。

2名対応は、単純に「重いから2人で持つ」という意味ではありません。一方の介助者がバランスを崩したときにもう一方がフォローする、利用者の姿勢が崩れたときに対応するなど、異常が発生したときの安全確保まで含めて人員を配置するという考え方が必要です。

実際に階段や段差では重大事故も起きている

階段介助でここまで安全性を重視するのは、転落した場合の結果が非常に大きいからです。

実際に、車いす利用者や階段昇降機を利用していた方が転落し、死亡する事故も発生しています。

2019年には神奈川県内で、可搬型階段昇降機を使用していた利用者が転落し、その後死亡する事故が報告されています。報道された事例の一つでは、階段を上って2階へ到着した際に操作者がバランスを崩したことをきっかけに昇降機が前方へ傾き、利用者が座面から落下しました。

また、2023年には神戸市で、デイサービスの送迎中に91歳の車いす利用者が住宅前の階段部分から転落し、死亡する事故が発生しています。この事故では、その後、介助していた職員が業務上過失致死の疑いで書類送検されています。

これらは、介護タクシーにおける「1名介助と2名介助」を直接比較した事故ではありません。そのため、これらの事故を理由に「階段介助は必ず2名でなければならない」と結論づけるものではありません。

しかし、階段や段差での移動では、一度のバランスの崩れや判断ミスが重大事故につながる可能性があることは理解しておく必要があります。

「今まで1人でできていたから大丈夫」ではなく、万が一のことが起きたときに利用者を守れる体制になっているのかまで考えることが重要です。

事業者の方へ 階段介助では使用する車いすも重要

ここからは、介護タクシー事業者の方にも参考にしていただきたい実務的な話です。

階段介助の安全性を考えるときには、介助人数だけでなく、どの車いすを使用するのかも重要になります。

階段対応の方法としては、可搬型の階段昇降機を導入する選択肢があります。人力による介助の負担を軽減するうえで検討する価値がありますが、導入には一定の費用がかかります。

そこで、これから階段対応を見直す事業者の方に、比較的すぐに検討できることとして情報提供したいのが、階段介助に使用する車いすの選択です。

私たちが人力で階段介助を行う場合には、基本的に自走用車いすではなく、コンパクトな介助用車いすを使用しています。

自走用車いすは、利用者自身が操作できるよう後輪が大きく作られています。平地では大きなメリットがありますが、人力による階段介助では、この大きな後輪が扱いにくさにつながる場合があります。

特に重要なのが、階段一段あたりの奥行きと車輪の大きさの関係です。後輪の大きな自走用車いすでは、階段の踏面に対して車輪が大きく、下方向へかかる力を介助者が支え続けながら昇降する状況になりやすくなります。

また、階段は直線部分だけではありません。途中に狭い踊り場がある場合、自走用車いすでは大きな後輪がスペースを取り、方向転換が難しくなることがあります。階段を途中まで進んでから「ここでは転回できない」と分かる状況は避けなければなりません。

その点、介助用車いすは自走用と比較して後輪が小さく、コンパクトなものがあります。階段の形状にもよりますが、一段ごとに車いすの位置や介助者の足元を確認しながら対応しやすく、狭い踊り場での取り回しにもメリットがあります。

私たちは車いす自体の重量も重視しており、階段介助に使用するものには、重量のあるスチール製ではなく、比較的軽量なアルミ製の介助用車いすを使用しています。

階段介助では利用者の体重だけを支えているわけではありません。車いすそのものの重量も介助者への負荷になります。そのため、重量、車体寸法、後輪の大きさ、階段の踏面との関係、踊り場での取り回しなども含めて、使用する車いすを選ぶ必要があります。

もちろん、介助用車いすを使えば階段介助が安全になるという意味ではありません。利用者の状態や階段の構造によっては人力による対応そのものを避けるべきケースもあり、必要に応じて複数名での対応や階段昇降機など、別の方法を検討する必要があります。

階段昇降機については、費用や使用頻度などを考えながら導入を検討していただくとして、まず現在使用している車いすが本当に階段介助に適しているのかを見直すことは、比較的すぐに始められる安全対策の一つです。

なぜ2名対応になると料金が高くなるのか

安全上2名での階段介助が必要と判断された場合、利用者やご家族にとって気になるのが追加費用だと思います。

介護タクシーには、1人の事業者が1台の車両を運転し、介助まで行っている小規模な事業者も多くあります。そのため、「この階段は2名で対応した方がよい」と判断しても、自社内でもう1名をすぐに配置できるとは限りません。

その場合には、他の介護タクシー事業者へ応援を依頼したり、必要な資格や経験を持つ介護人材を外部から確保したりする必要があります。

ここで理解していただきたいのは、実際の階段介助が10分だったとしても、応援者を「10分だけ手配する」ことはできないということです。

現場までの移動、事前の調整、利用者の状態や介助方法についての情報共有があり、介助終了後にはそこから次の業務へ移動する時間も必要になります。

事業者側からすると、**「10分間の階段介助に料金をいただいている」のではなく、「その階段介助を安全に実施するために、もう1名の人員を確保している」**ということになります。

介護タクシー事業者としても、利用者の負担を考えれば料金はできるだけ抑えたいところです。しかし、安全上2名が必要な現場について、料金を下げるために1名対応へ変更することは、安全との引き換えになってしまう可能性があります。

階段介助の追加料金には、単に「人が1人増える」ということではなく、重大事故を防ぐために必要な人員を確保する費用という意味があることも、ご利用者やご家族、医療・介護関係者の皆さまに理解していただきたいところです。

当日の「やめる判断」も階段介助の一部

予約時に十分な情報を確認していても、当日の状況が事前情報と同じとは限りません。

利用者の体調が変化していることもあれば、想定していたより姿勢保持が難しい場合もあります。実際に現場へ行ってみると、聞いていた階段の状況と違うこともあります。

そのため、階段介助を始める前に、利用者の状態、介助方法、階段、足元、障害物などを改めて確認します。使用する車いすや機材へ移乗した後も、利用者の姿勢が安定しているか、足や腕が危険な位置にないか、安全ベルト等が適切に使用されているかなどを確認してから介助を開始します。

事前の想定より危険性が高いと判断した場合には、人員を追加する、方法を変更する、場合によってはその場での介助を中止して別の方法を検討することも必要です。

予約を受けたから何が何でも実施するのではなく、安全にできないと判断したらやらない。

この判断も、階段介助に必要な専門性の一つだと考えます。

「できるか」ではなく「安全にできるか」

介護タクシーの階段対応は、階段だけを切り取った作業ではありません。

室内からの移乗、階段、玄関、車両までの移動、スロープやリフトを使った乗車、車内での車いす固定まで、一連の移動として安全を考える必要があります。

そして階段介助の専門性とは、「階段を上り下りできる技術」だけではありません。

利用者の状態を把握する。階段の構造を確認する。適切な車いすや機材を選択する。必要な人数を判断する。当日の状態を再確認する。そして、何か起きたときにも利用者を守れる体制を考える。

事業者の方には、階段昇降機などの設備投資を検討すると同時に、まずは現在使用している車いすや介助人数、事前確認の方法など、すぐに見直せるところから安全対策を始めていただきたいと思います。

利用者やご家族には、安全上必要な2名対応によって追加費用が発生する場合があることについて、ご理解いただければと思います。

階段介助で判断するべきなのは、

「できるかどうか」ではなく、「安全にできるかどうか」。

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この記事を書いた人

2004年に介護タクシーを開業し、20年以上にわたり介護・医療搬送に携わる。延べ10万件以上の搬送実績をもとに、介護タクシーの知識や運営ノウハウ、移動に関する課題解決を発信。現場で培った経験と道路運送法・介護制度の知識をもとに、利用者・医療介護従事者・事業者に役立つ情報を届けています。

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