2026年8月、移動支援を取り巻く重要なニュースが相次ぎました。
車いす送迎の重大事故、横浜市の福祉タクシー利用券の制度変更、「交通空白」への国の対応、福祉と交通の連携、そしてAIを活用した移動支援。
個別のニュースを追っていくと、移動支援が単なる「送迎」から、地域全体で人の移動を支える仕組みへ変わり始めていることが見えてきます。
車いす送迎、7年間で49件の事故・30件が死亡事故
消費者安全調査委員会は7月29日、「車椅子使用者を自動車で送迎中の事故」について経過報告を公表しました。8月には大きく報道され、介護・福祉の送迎に携わる事業者に衝撃を与えました。
2019年から2025年までに把握された事故は49件。そのうち30件が死亡事故でした。
この問題が示しているのは、**「安全運転だけでは利用者を守れない」**ということです。
車いすの固定、利用者のシートベルト、乗車姿勢、使用機材の確認など、移動支援には一般の運転とは異なる専門性があります。
経験や慣れだけに頼らず、出発前確認や研修を事業者の仕組みとして整える必要があります。
横浜市、福祉タクシー利用券の「7枚制限」を撤廃
横浜市は8月20日、福祉タクシー利用券について大きな制度変更を発表しました。
2026年10月1日から、1回の乗車につき7枚までとしていた利用枚数制限がなくなります。
利用券は1枚500円を上限に助成されるため、これまでは1乗車につき最大3,500円分まででした。
10月からは、この上限がなくなります。
ただし、年間の交付枚数そのものが無制限になるわけではありません。通常は年間84枚、一定の人工透析通院者は年間168枚という交付枚数は維持されます。
介護タクシーでは長距離の通院などで運賃が3,500円を超えるケースがあります。
今回の変更によって、利用者は必要な移動に手持ちの利用券をまとめて使えるようになります。
横浜の移動支援にとって、実務上も大きな変更です。
国が「交通空白」を防ぐ新制度を開始
8月4日、国土交通省は「交通空白」を発生させない地域公共交通の体制づくりを目的として、市区町村を対象とした新たな認定制度を創設しました。
背景にあるのは、バスなどの担い手不足による路線の休廃止、高齢化による免許返納、病院や学校の統廃合などです。
国は公共交通を、買い物・医療・教育など日常生活に不可欠な移動を支える基盤と位置づけています。
移動できないという問題は、交通だけの問題ではありません。
医療、介護、買い物、社会参加など、地域で生活を続けられるかという問題につながっています。
国土交通省「持続可能な地域公共交通の実現に向けた体制づくり」
国も「福祉×交通」の連携を推進
8月12日、中国四国厚生局は「福祉×交通」の特設ページを公開しました。
高齢者の外出は通院だけではなく、介護予防、孤立防止、社会参加、買い物などにも関係します。
一方で、介護事業者自身も送迎人員の確保という問題を抱えています。
そこで政府が進めているのが、福祉分野と交通分野の連携・協働です。
「介護事業者だけで送迎を抱える」のではなく、地域の交通事業者などと連携して移動手段を確保する。
今後の地域移動支援を考えるうえで重要な方向性です。
秋田ではAIが介護タクシー・民間救急を手配
AIを活用した新しい取り組みも始まっています。
秋田市と株式会社VISTAは、2026年7月から非緊急医療搬送の手配をDX化する「地域搬送DXプロジェクト」の実証を開始しました。8月時点で進行している注目事例です。
特徴は、AIが車いす・ストレッチャー対応の介護タクシーや民間救急の配車手配を行うことです。
従来、病院やケアマネジャーなどが搬送事業者を探す際には、複数の事業者へ電話しなければならないことがあります。
今回の仕組みでは、マッチングシステムとAIコールセンターを組み合わせて、この手配を効率化します。
Webだけではなく電話から利用できるため、スマートフォンを持たない高齢者も想定されています。
これは単なる「AI配車」ではありません。
利用者・医療介護関係者と地域の搬送事業者をつなぐ仕組みそのものを変える実証実験として注目できます。
AIは「車に乗る前後」の移動にも
国土交通省は8月20日、歩行空間の移動支援データについても新たな取り組みを発表しました。
AIを活用して歩行空間ネットワークデータを効率的に整備する現地実証などが検討されています。
車いす利用者にとって、移動は「車に乗っている時間」だけではありません。
自宅から車まで、降車場所から病院まで、段差、坂道、エレベーターなどを含めて一連の移動です。
こうした情報がデータ化されれば、将来的にはより安全で効率的な移動支援につながる可能性があります。
2026年8月、移動支援は「個社」から「地域の仕組み」へ
8月のニュースを並べると、一つの方向性が見えてきます。
安全を高める。
利用者の負担を軽減する。
地域の移動手段を維持する。
福祉と交通をつなぐ。
事業者同士をつなぐ。
そしてAI・デジタルを活用する。
介護タクシーも、民間救急も、介護事業者も、一社だけですべての移動ニーズに対応することには限界があります。
必要なのは、一社ですべてを抱えることではなく、地域にある移動資源を安全につなぐ仕組みではないでしょうか。
2026年8月は、「移動支援=送迎」という従来の考え方から、地域全体で移動を支える社会インフラへと変わっていく流れが、よりはっきり見えた1か月だったと言えそうです。

