介護タクシーの仕事をしていると、自社では対応できない予約を、知り合いの事業者さんにお願いすることがあります。
「その日は車が全部埋まっているんです」
「うちでは階段介助に対応できないので、どなたかお願いできませんか?」
「急な退院が決まったのですが、対応できる車両が見つからなくて……」
そんなとき、協力してくれる事業者さんがいるのは、本当にありがたいことです。
私自身、2004年から20年以上介護タクシーの仕事を続けてきましたが、すべての依頼に自社だけで対応することはできません。
だからこそ、同業者同士のつながりは大切だと考えてきました。
ところが先日、その考え方を改めて見直す出来事がありました。
他社の事業者さんに仕事をお願いしたところ、2件続けてクレームにつながってしまったのです。
原因の一つは、料金や利用者情報の伝達が不十分だったことでした。
もちろん、仕事を引き受けてくださった事業者さんだけが悪いわけではありません。
むしろ、依頼する側である私たちにも、改善しなければならない点がありました。
そこで今回は、介護タクシー事業者同士の連携について、私自身が経験したこと、そして今後必要だと感じていることをお話ししたいと思います。
仕事を紹介することと、安心して任せられることは違う
介護タクシーの事業者同士で協力するとき、最初に確認するのは、だいたい次のようなことではないでしょうか。
「何日の何時ですか?」
「どこからどこまでですか?」
「車いすですか? ストレッチャーですか?」
「対応できますよ」
これで仕事が決まることもあります。
しかし、実際の搬送には、これだけでは分からないことがたくさんあります。
例えば、同じ車いすの利用者さんでも、玄関までご自身で出てこられる方と、ベッドからの移乗介助が必要な方では、対応が大きく変わります。
マンションの入口で待っているだけでよい場合もあれば、居室まで迎えに行き、エレベーターを使って車両までご案内する場合もあります。
さらに、料金についても事業者ごとに違いがあります。
運賃のほかに、基本介助料、機材使用料、階段介助料、付き添い料金などが発生することがあります。
依頼元が想定していた金額と、実際に対応した事業者さんの請求金額が違っていれば、利用者さんは驚いてしまうでしょう。
「そんな料金がかかるなんて聞いていません」
利用者さんからすれば、当然の疑問だと思います。
依頼元は「仕事をお願いした」という認識でも、利用者さんにとっては「いつもの事業者さんにお願いした」という認識のままかもしれません。
ここに、大きな認識の違いが生まれます。
仕事を紹介できる関係と、安心して仕事を任せられる関係は、必ずしも同じではない。
今回の経験で、私はそのことを強く感じました。
「いつもこうしている」が通用しない
介護タクシー業界には、さまざまな経歴の事業者さんがいます。
介護施設で働いていた方、訪問介護の経験がある方、一般タクシーから転業した方、まったく別の業界から独立した方。
それぞれに経験があり、得意分野があります。
これは業界の強みでもあります。
一方で、事業者ごとに仕事の進め方が違うという課題もあります。
例えば、こんなケースを考えてみてください。
ある事業者さんは、予約時間の10分前に到着することを基本にしています。
別の事業者さんは、予約時間ちょうどに到着すれば問題ないと考えています。
どちらも、自社では当たり前の運用かもしれません。
しかし、病院の退院時間や施設の受け入れ時間が決まっている場合、その違いがトラブルにつながることがあります。
料金についても同じです。
「車いす介助は基本料金に含んでいます」
「うちは別料金です」
「院内までの付き添いも対応します」
「当社は車両への乗降介助までです」
それぞれの事業者が、自社のルールに従って仕事をしているだけでも、連携したときには問題が起きる可能性があります。
つまり、誰かが特別に悪いという話ではありません。
それぞれの正しさが、必ずしも利用者さんにとっての安心につながるとは限らないのです。
利用者さんは事業者間の事情を知りません
ここで、忘れてはいけないことがあります。
利用者さんやご家族は、私たち事業者同士の関係を詳しく知っているわけではありません。
いつもの介護タクシーに電話をして、別の事業者が来ることになった。
それでも、依頼した事業者が責任を持って手配してくれたと思っているかもしれません。
例えば、いつも利用している介護タクシーから、
「その日は別の事業者さんが伺います」
と案内されたとします。
当日、いつもと違う料金を請求されたり、お願いしていた介助が伝わっていなかったりしたら、どう感じるでしょうか。
「別の会社だから仕方ないですね」
と納得していただけるとは限りません。
むしろ、
「いつもの会社にお願いしたのに、どうしてこんなことになったの?」
と思われるのではないでしょうか。
私たちがどれだけ事業者間で事情を説明しても、利用者さんにとって重要なのは、安心して目的地まで移動できることです。
紹介元と対応事業者の間で責任を押し付け合っても、利用者さんの不安は解消されません。
だからこそ、仕事を紹介する側にも、事前確認や説明の責任があると私は考えています。
もちろん、実際の運送契約の当事者や法令上の責任は、契約形態や運行内容によって異なります。
しかし、法律上の責任とは別に、利用者さんからの信頼を守るためにできることはあるはずです。
事業者間の連携に必要なのは、共通のルール
では、どうすればトラブルを減らすことができるのでしょうか。
私は、事業者同士が仲良くなることだけでは不十分だと考えています。
もちろん、顔の見える関係は大切です。
しかし、何度も食事をしたことがある相手でも、仕事の進め方が同じとは限りません。
必要なのは、誰が対応しても、一定のサービス品質を保てる仕組みだと思います。
例えば、仕事を紹介するときには、最低限、次のような情報を共通の書式で確認することが考えられます。
- 利用日時、出発地、目的地、受け入れ時間
- 車いすの種類、移乗介助、階段介助の必要性
- 利用者さんの状態と搬送上の注意点
- 介助内容、機材、付き添いの範囲
- 運賃・介助料・機材使用料を含む料金の説明
- 料金を説明する人、請求する事業者、支払方法
- 遅延やトラブルが発生した際の連絡先
特に料金については、紹介元と対応事業者が確認しただけでは足りません。
最終的に利用者さんやご家族が、どの事業者と契約し、どのような料金が発生するのか理解していることが大切です。
また、利用者さんの身体状況や連絡先などを他社へ伝える場合には、個人情報の取り扱いにも注意が必要です。第三者提供に当たる場合は原則として本人の同意が必要であり、委託などの場合は取り扱いが異なります。
こうしたことを、一つひとつ確認するのは面倒に感じるかもしれません。
しかし、クレームが発生してから対応することを考えれば、事前の確認に時間をかける価値は十分にあると思います。
クレームは、連携の仕組みを見直す機会になる
クレームが発生すると、どうしても気持ちが落ち込みます。
「せっかく仕事をお願いしたのに」
「どうして確認してくれなかったんだろう」
そんな気持ちになることもあるでしょう。
しかし、そこで相手を責めるだけでは、同じ問題が繰り返されてしまいます。
大切なのは、何が起きたのかを確認することです。
例えば、料金についてクレームが発生したのであれば、誰が、いつ、どの料金を説明したのか。
依頼元は料金を把握していたのか。
対応事業者は、事前に料金を提示していたのか。
利用者さんには、その内容が伝わっていたのか。
一つひとつ確認していくと、個人の注意不足だけではなく、そもそも情報を確認する仕組みがなかったという問題が見えてくることがあります。
旅客自動車運送事業運輸規則第3条では、苦情の内容や原因究明の結果、改善措置などを記録し、整理して1年間保存することが定められています。
つまり、クレームへの対応は、その場で謝罪して終わりというものではありません。
次に同じ問題を起こさないための改善につなげることが大切なのです。
私たち自身も、今回の経験をきっかけに、事業者間の連携方法を見直していかなければならないと感じています。
20年前から繰り返されてきた業界の課題
介護タクシー業界では、これまでも事業者同士が集まって協力しようという取り組みが行われてきました。
私自身、20年以上この業界にいる中で、さまざまな連携の形を見てきました。
もちろん、長く活動を続けている団体もあります。
しかし、人が集まるだけでは、継続的な事業連携につながらないこともあります。
なぜでしょうか。
私は、その理由の一つに、サービス品質や運用ルールの違いがあるのではないかと考えています。
仕事を紹介すること自体は、それほど難しくありません。
しかし、紹介した仕事が安全に行われ、利用者さんに満足していただき、紹介元にも対応事業者にも信頼が積み重なっていく。
そこまで実現するには、共通の考え方と仕組みが必要です。
そして、もう一つ大切なのは、ルールを作って終わりにしないことです。
現場で問題が起きたら、その都度見直す。
良い取り組みがあれば共有する。
事業者ごとの得意分野を生かしながら、最低限守るべき基準をそろえていく。
そうした積み重ねが必要なのだと思います。
ISNが目指したいのは、安心して仕事を任せ合える関係
私が取り組んでいるISN(移動サポートネットワーク)でも、事業者同士の連携を進めています。
介護タクシーだけでなく、階段介助、看護師の付き添い、福祉機材の手配など、それぞれの専門性を生かして協力できる仕組みを考えています。
しかし、今回の出来事を通じて、単に参加事業者を増やすだけでは十分ではないと感じました。
10社集まれば10社分の仕事ができる。
20社集まれば20社分の仕事ができる。
数字だけを見れば、そう考えたくなります。
でも、実際にはそう簡単ではありません。
サービスの品質や料金説明が統一されていなければ、参加事業者が増えるほど、トラブルの可能性も増えてしまいます。
だからこそ今後は、事業者同士のつながりを広げるだけでなく、共通のサービス基準や情報共有の仕組みを整えていきたいと考えています。
その先には、共通の運営基準を持つフランチャイズのような形も、一つの選択肢として考えています。
ただし、名前や看板をそろえれば安心できるというわけではありません。
必要なのは、教育、運行管理、料金説明、介助品質、苦情対応などを、継続して改善できる体制です。
これは簡単な挑戦ではありません。
私自身、まだ答えを持っているわけではありません。
それでも、20年以上この仕事を続けてきたからこそ、次の世代の事業者さんたちが、安心して仕事を続けられる仕組みを作っていきたいと思っています。
最後に。皆さんの事業所ではどうしていますか?
介護タクシーは、一人の事業者だけで完結できない仕事がたくさんあります。
急な退院、階段介助、看護師の付き添い、長距離搬送。
困ったときに助け合える仲間がいることは、本当に心強いことです。
しかし、仲が良いことと、仕事を安心して任せられることは別です。
信頼できる連携を実現するためには、善意や経験だけに頼らず、誰もが理解できるルールを整える必要があるのではないでしょうか。
私自身、今回のクレームを通じて、その必要性を改めて感じました。
失敗したことを隠すのではなく、そこから何を学び、どう改善していくのか。
これからのISNでも、そうした経験を共有していきたいと思います。
皆さんの事業所では、他社に仕事を紹介するとき、どのようなことを確認していますか?
料金の違いや情報の伝達不足で、困った経験はありませんか?
また、「こんなルールがあれば安心して仕事を任せられる」というアイデアがあれば、ぜひ聞かせていただきたいです。
介護タクシー事業者同士が、安心して仕事を任せ合える業界へ。
そのために、まずは私たち自身の仕事の進め方から見直していきたいと思います。

