売上が増えたのに、なぜお金が残らないのか
介護タクシーを経営していると、こんなことを考える時期があると思います。
「予約が増えてきたから、そろそろ車を増やそうか」
「もう1台あれば、断っている仕事も受けられる」
「ドライバーを採用すれば、もっと売上が伸びるはずだ」
事業を成長させたい経営者なら、当然考えることです。
しかし、ここで一つ確認しておきたいことがあります。
その増車は、現在の利益で支えられるものでしょうか。
私は2004年に介護タクシー事業を始め、20年以上この仕事に携わってきました。
個人事業から法人化し、少しずつ車両とスタッフを増やしてきました。
その中で感じているのは、売上を増やすことと、利益を残すことは、まったく別の技術だということです。
今回は、介護タクシー事業者が増車を考える前に取り組んでおきたい、コスト管理と利益の考え方についてお話しします。
1. 車を増やせば売上が増える、とは限らない
介護タクシーは、車両とドライバーがいて初めてサービスを提供できる事業です。
そのため、売上を増やそうとすると、どうしても増車という選択肢が出てきます。
しかし、車両が1台増えれば、当然ながら費用も増えます。
車両購入費やリース料、任意保険料、燃料費、整備費、駐車場代。そして何より大きいのが人件費です。
例えば、ドライバー1名を採用した場合、給与だけを考えていては不十分です。
社会保険料の会社負担、採用費、教育費、有給休暇への対応なども考えなければなりません。
仮に給与が月額25万円だったとしても、会社が負担する総額はそれ以上になります。
さらに、車両の維持費も発生します。
つまり、増車した瞬間から、売上が発生するかどうかに関係なく、毎月の固定費が増えるのです。
ここを理解せずに増車すると、売上は増えているのに利益が減ってしまうことがあります。
2. 増車の前に、もう一人分の人件費を生み出す
私が重要だと考えているのは、次の順番です。
まず既存の車両とスタッフで利益を増やし、その利益からもう一人分の人件費を賄える状態をつくる。そのうえで増車を検討する。
例えば、新たなドライバーを採用することで、会社負担が毎月35万円増えるとします。
その場合、既存事業の収支を改善し、毎月35万円以上の利益を継続的に生み出せる状態を目指します。
もちろん、実際には人件費だけでなく、新しい車両の維持費や予備費も必要です。
しかし、少なくとも人件費を支える利益が確保できていれば、新人がすぐに売上をつくれなかったとしても、経営への負担を抑えることができます。
逆に、現在の利益がほとんど残っていない状態で増車すると、新しいドライバーが最初から十分に稼働することを前提にした経営になってしまいます。
これは非常に危険です。
増車は、売上を増やすための賭けではありません。
すでに生み出せている利益を、次の成長へ投資すること。
私はこの考え方が重要だと思っています。
3. 利益を生み出すために見直したい5つのコスト
では、既存の事業で利益を増やすには、何をすればよいのでしょうか。
最初に取り組みたいのは、コストの見える化です。
① 車両ごとの収支を把握する
会社全体の売上だけを見ていても、どの車両が利益を生み出しているのかは分かりません。
車両ごとの売上、燃料費、整備費、保険料、人件費などを確認します。
単純に売上が高い車両が、最も利益を残しているとは限りません。
② 空車回送と待機時間を減らす
介護タクシーは、お客様を乗せている時間だけでなく、お迎えに向かう時間や待機時間も発生します。
特に長距離搬送では、帰りの空車回送が大きな負担になることがあります。
予約の組み方や配車の順番を工夫するだけでも、収益性が改善する可能性があります。
③ 残業と人員配置を見直す
忙しい時間帯と、比較的予約が少ない時間帯を把握することも重要です。
予約の偏りによって残業が発生していないか。
特定のドライバーに負担が集中していないか。
勤務時間と予約状況を照らし合わせることで、無理のない効率化を考えます。
ただし、労働時間の削減だけを目的に、安全確認や必要な休憩を省略してはいけません。
④ 車両の維持費を把握する
車両の修理費や消耗品費は、1回ごとには小さく見えるかもしれません。
しかし、年間で集計すると大きな金額になることがあります。
車両ごとの修理履歴を残し、計画的な整備や買い替えの判断につなげることが大切です。
⑤ 売上の取りこぼしを減らす
コスト削減だけが利益改善ではありません。
適切な料金設定、予約の組み合わせ、必要な介助サービスの提案などによって、既存の車両でも売上を改善できる可能性があります。
もちろん、必要のないサービスを追加するという意味ではありません。
提供しているサービスに対して、適正な対価をいただくことも、事業を継続するために必要なことです。
4. 増車の判断は「月商」ではなく「残るお金」で考える
ここで、簡単な例を考えてみます。
ある介護タクシー事業者の月商が300万円、経費が270万円だったとします。
この場合、毎月の利益は30万円です。
ここに新たなドライバーを採用し、人件費が35万円、車両関連の固定費が10万円増えるとします。
新しい車両の売上がまだ発生していなければ、単純計算で毎月15万円の赤字になります。
一方、既存事業の収支改善によって毎月60万円の利益を確保できていれば、同じ45万円の固定費が増えても、一定の余力があります。
もちろん、毎月の利益が出ていても、現金が足りなければ経営は続けられません。
増車を判断する際には、損益だけでなく、手元資金、借入返済、税金の支払い、突発的な修理費なども確認する必要があります。
大切なのは、増車後に売上が増えることを期待するだけでなく、売上が伸びるまで耐えられる経営体力をつくっておくことです。
5. コスト管理は、スタッフを苦しめるためではない
コスト管理というと、人件費を削ることだと考える方もいるかもしれません。
しかし、私はそうは考えていません。
むしろ、無駄な経費を減らすことによって、スタッフの待遇改善や教育、新しい車両への投資ができるようになります。
利益が残らない会社では、どれだけ忙しくても、給与を上げることが難しくなります。
人が足りなくても採用できない。
車両が古くなっても買い替えられない。
経営者自身が休めない。
こうした状態を改善するためにも、利益を残す仕組みが必要なのです。
コスト管理の目的は、単に支出を減らすことではありません。
スタッフが安心して働ける会社をつくり、事業を長く続けていくことです。
6. 増車する前に確認しておきたいこと
私なら、増車を決める前に、少なくとも次の点を確認します。
- 既存車両の収益性を把握できているか
- 新しいドライバーの人件費を既存の利益で賄えるか
- 車両維持費を含めても利益が残るか
- 新人が売上をつくるまでの運転資金があるか
- 増車後の予約獲得と教育の体制が整っているか
ここまで確認したうえで、初めて増車を具体的に検討します。
もちろん、すべての事業者に同じ判断基準が当てはまるわけではありません。
確実性の高い新規契約がある場合や、十分な資金を確保して計画的に先行投資する場合もあるでしょう。
ただし、その場合でも、数字に基づいた判断が必要です。
7. 会社を大きくすることより、強くすること
介護タクシー事業では、車両台数が増えると会社が成長しているように見えます。
しかし、車両が10台あっても利益が残らない会社と、3台でも安定した利益を生み出している会社では、どちらが健全な経営なのでしょうか。
もちろん、台数だけで答えが決まるわけではありません。
私自身も、現在進行形で組織づくりと増車に挑戦しています。
だからこそ、車両を増やすことだけを目標にするのではなく、その成長を支えられる収益構造をつくることが大切だと感じています。
売上を増やす前に、今ある売上からどれだけ利益を残せるか。
人を増やす前に、今いるスタッフが効率よく、安心して働ける仕組みをつくれているか。
車を増やす前に、その車を維持できるだけの経営体力があるか。
一つひとつを確認していくことが、結果として持続的な成長につながるのだと思います。
増車できる会社を目指すのではなく、増車しても揺らがない会社をつくる。
そのために、まずはコスト管理を徹底し、利益から次の一人分の人件費を生み出すこと。
これが、私が大切にしたい事業拡大の順番です。
カテゴリー: 事業者ノウハウ
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